第25回公演
トイレはこちら
作・別役 実
演出・片寄晴則

スタッフ
照明 上村裕子 福崎米蔵  効果 山原清則  衣裳 赤羽美佳子  小道具 山田あゆみ  舞台監督 片寄晴則  
制作 上村裕子 村上祐子 

キャスト
女・内山裕子  男・富永浩至 

とき
1993年10月30日(土)開演午後6時 午後8時 31日(日)開演午後4時 午後6時 11月3日(水)開演午後4時 午後6時
ところ
演研芝居小屋(帯広市西2条南17丁目)
前売り1000円  当日1200円  (コーヒー券付き)

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●上演パンフレットより

 

再演にあたって

片寄 晴則
 昨年の「楽屋」以降、三本連続で清水邦夫作品に取り組んできた我々ですか、ここらでちょっと趣を変えて、秋の一夜を軽い笑いの中で過ごしていただこうと久し振りに「トイレはこちら」を取り上げてみました。前回は初のロングラン公演ということで、八十八年九月から八十九年十一月にかけて二十二ステージを持ちました。会場は大通 茶館。その後、拠点を芝居小屋に移し、当時の団員も半数が入れ替わり、初めて御覧くださるお客様も多いのではないのでしょうか。
 そして今回、演出が富永浩至から私に、私と上村裕子が交替で演じた役を内山裕子にバトンタッチし内山なりの新しい人物像を作り出すべく稽古を積んでおりますが、基本的には富永演出を踏襲しています。登場人物の二人が交わす言葉の微妙なズレから生じるおかしさを、軽い気持ちで楽しんでいただけたらと思っています。


つ ぶ や き

上村 裕子
 公演を終えた時は、基礎訓練に戻ろう、次の公演を打たなくてもみっちりやろうとさえ思うのに月日が流れると、「公演」を打ちたくて、しようがなくなる自分に気づく。公演を打つためだけに、芝居を続けているわけではないのに…。
 日常生活の中で『血が逆流するような思い』を感じるのは、難しいように思う。それは、苦しみであったり、喜びであったり、さまざまな感情に支配されるが、この『思い』を感じられるから公演を打ちたいと、又、芝居を続けていきたいと思うのかも知れない。

内山 裕子
 前略
 ここ、北海道、帯広では、朝夕まるで冬のような冷え込みが続いています。そしてそれを吹き飛ばすごとく熱い稽古が毎晩続いています。誰もでも自分の世界をもち、自分のドラマがあり、もしかしたらそれは人からみれば、ちょっと変わったファンタジーなのかもしれません。そんな別 役実の世界に、私も手招きをされている様な気がします。
 昨夜、セリフを忘れて真っ青!冷や汗タラタラの夢を見ました。好きで続けている事なのに、いつもいつも満足なんてちっとも出来なくて自分を呪いたくなるのはどうしてでしょうね。だけど、今度ばかりは、そんな自分を追い払って、楽しんで別 役実のあの雰囲気の中でそのヒトになりたいと思うのは…ぜいたくでしょうか。
 今日は本当にありがとう。ちょっとファイトが出そうな気がします。 かしこ

山田 あゆみ
先日、チケットを預かってもらいに母校に行った。ハンドルを持つ私の横を見慣れた景色が流れていく。懐かしい校門をゆっくりとくぐった私の目に入ってきたものは、下校時の高校生だった。車を降りて、私はすぐに高校生に混ざって歩きだした。高校生から見れば化粧をし、いっちょう前にスーツを着こなした(?私は見知らぬ「大人」だっただろう。)でも、私は不思議と違和感も持たずに歩いていた。生徒玄関から入って靴を脱いだ時、私は初めて来客用のそれが違う場所にあったことを思い出し、「そうなんだ。私は客なんだよなぁ」と一人苦笑した。そして、つかの間でも高校時代にタイムスリップしたような錯覚に陥った自分が、とても新鮮に思え、ちょっと嬉しかった。

赤羽 美佳子
 私と「演研」の出逢いは、二十二才の秋でした。友人と行った展覧会場に「檸檬」という芝居のポスターが張ってありました。「おもしろそうだね」と、すぐその大通 茶館での公演を観に行くことにしました。
 そこは不思議な空間でした。目の前の小さな舞台から、ものすごいパワーを感じました。そしてぐいぐい引き込まれていきました。役者がふところから出した氷の袋、ラストに転がった沢山のレモン、そして魅力的な人々…。「テーマは何だろう?」「プロなのかな?」そんなことを考えて、もう一度観に行きました。
 あれから七年が過ぎ、何度か休団しながら、二十代最後の秋を迎えています。素敵に生きていないと、素敵に舞台に存在出来ないと思いながら。

富永 浩至
 私が前の会社を辞め、多少時間に余裕が出来た時、片寄と二人で演研の活動とは別 に何かつくってみようと始めたのがこの「トイレはこちら」である。当初は演研としての公演とは考えてなかったのだが、最終的にロングラン公演となった思い出深い作品でもある。
 前回、演じることであらためて感じた別役作品の難しさに、また向き合うことになった。「演じてはいけない。演じるとウソになる」。矛盾しているようだが、まさにこの作品を演じる時はこのことを強要される。役者にとっては一番つらい作業である。やればやるほど、考えていることと掛け離れていく、そんな焦燥感をぬ ぐえないのである。ただ舞台に立っているだけでその役の生活感がにじみ出る、そんな役者になりたい。

山原 清則
 演研の芝居小屋を知ったのは今から三年半前だったろう。僕が帯広に来たころ、自転車で小屋の前を通 り過ぎ、一度振り返ってもう一度見たことを覚えている。なぜ振り返ったのだろう。僕は今、その小屋で演研の人達と一緒に練習している。まったく演劇のことについて経験も知識もない僕を、やさしく迎え入れてくれた。いろんなことを学び始めたばかりだ。この前実家に電話をかけた時、「演劇を始めたねん」と話すと「そんなことをしてるん」と言っていた。おそらく僕からは考えもつかなかったのだろう。
 まったく未知の世界に足を踏み入れたばかりで、無限に夢のようなものが僕の前に広がっている。演研の人達はみんな 少年、少女のようで、それぞれの夢の世界を自由に飛び回っているようだ。僕もこれから夢の世界を自由に飛び回りたいと思う。

福崎 米蔵
 いつから涙を流さなくなったのだろう。時には友と、あるいは一人部屋の片隅で頬を伝う熱い一筋の涙を流したのはいつの事だったろうか。ずいぶん昔の事だったような気がする。今では妙に分かった振りをして変に妥協し、一歩下がった所で満足している自分がいる。それが口惜しくて、何かせずにいられず、演研の門をたたきました。
 焦りといら立ち、怒りと憤り、憎しみと恨み、真実と虚実、確かさと不確かさ、何も区別 が出来ず、自分の事すら分からずにいる。しかし、世の中に存在するものはすべて、それぞれに存在理由を持っているはず。これから自分自身のそれを見いだしていかなければと思う。

 

 

 ● 釧路・札幌公演へ 

アンケートより

・やはり別役の作品はむずかしいですね。完成度は高かったと思いますが……。演研さんの作品の中にはいつも、気持ちのいい「ウラギリ」があるので、今回も楽しみにしていたのですが、王道でしたね、残念ながら。これからも頑張って下さい。しかし、今回の作品は……。あんまり好きじゃないな…。(男性・会社員・23歳)

・「軽い笑い」ということでしたが、あまり笑えませんでした。風刺なり、笑いの種を工夫すると、もっと笑えたのだと思います。(男性・教員)

・女の人は、最初から死なないだろうとは思っていたが、その結果への持っていき方がうまかった。表情も豊かだし、楽しかった。(女性・大学生・20歳)

・今まで重かったので笑えるのも楽しくていいですね。なきむしなので笑える方がいいです。はずかしいから…。(主婦)

・今回、久しぶりに見ました。ウイットにとんでいて、しかし何か生きていくことの大切さをじんわりと感じさせてくれました。人は一人では生きられないって思いました。(男性・43歳)

・セリフの言い回しが難しいですよね。その点では、もう一息ですよね。初舞台、山田さん。コチコチの演技がこれまたひと味(かくし味ですね)今後の御活躍を期待いたします。(男性・公務員)

・テンポがよく、見ててあきがこなく、終わった後も気分がよくなるような感じでした。目の動き、表情もよく惹きつけられるようでした。(女性・OL)

・二人の会話を聞いていたら、何か変な感じがした。二人が話していることが正しい、「普通 」なのでは…と思えてしまった。楽しかったし、「うー」とうなってしまった所もあった。(女性・大学生・19歳)

・会話劇とのことですが、気をそらせないところに驚きです。時間の過ぎるのが早く感じました。(女性・事務員・48歳)

・ここを一年前に自転車で通ったとき、「一体何なんだ、ここは」とすごく気になっていました。今日、初めてその謎がとけ、うれしかったです。(女性・大学生・20歳)

・最後のひとことがとても良かった。作者、演出家が「今!」をいいたかった様に感じました。多面 性、一つだけが正しいのではないということを強く意識している感があり、共鳴致しました。(女性)

・軽い作品であるが、深みが感じられない。前作までのイメージを引きずっているのかなあ。やりとりは十分楽しめた。最後のセリフで、やや深みが出たかな?(男性・教員・35歳)

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