第68回公演  「トイレはこちら」
 作:別役 実  演出:片寄晴則

 スタッフ
  片寄晴則、上村裕子、村上祐子、鈴木えりか
  

 キャスト
  男 富永浩至   女 坪井志展  野口利香  金田恵美 (女役はトリプルキャストです)   


上演にあたって

片寄 晴則

 1988年春、富永浩至が転職し日中に空き時間が出来た時に、演研の活動とは別に私と二人で何か創ってみようと始めたのがこの「トイレはこちら」。当初は上演など、まして私が役者として舞台に立つなど考えもしてなかったものが、結果的に88年9月から89年12月にかけてロングラン公演として22回の上演に到った思い出深い作品です。(89年6月からは私の役を上村裕子に交替)そしてその後、女役を替えての93年の再演時には、帯広市文化奨励賞をいただく事になり、団員達が公演会場からトレーナー姿で授賞式に臨んだもの懐かしい思い出です。
 日本における不条理演劇の草分けである別役実氏の作品については、十人いたら十人の別役論があると言われています。私はというと今まで五本の別役作品に挑んできましたが、未だ『別役論』など語ることが出来ずにいます。ただ今回、21年振りの再々演にあたり、脚本を読み返しているうちに、「これは落語のようなものではないか」という思いに至りました。不条理劇だからと難しく考えるのではなく、落語に出てくる八つあん、熊さんが繰り広げる、思い込みによる言葉や意識のズレを演じるときっと面白いのではないかという事です。しかし、『言うは易し、演じるは難し』が現実なのですが・・・
 大通茶館、演研芝居小屋、そして演研・茶館工房と上演場所が移り、今回は初のトリプルキャストによる上演であります。軽い気持ちで三者三様の『間』を楽しんでいただけたらと思い稽古を重ねてきました。
 本日はご来場いただき、ありがとうございます。


 


つぶやき

坪井 志展
 次回公演として、演研最初で最後?のロングラン公演作品である「トイレはこちら」に、もう一度挑戦することになった。
 初回と、その後の演出二人がいるのだから、作品作りに関して心配は、なんにもない。でも、自分自身には、自信が持てない。「この女の台詞を発する事が自分にできるのだろうか?」葛藤がありました。
 所詮人間なんて滑稽なものと思い切れるまでの時間が必要でした。でも、そう考えられれば、脚本に書かれている事を、体の力を抜いて素直に言葉にすればいいと納得できました。
 今は、稽古をしながら、この男と女、いや人間同士のやり取りを、ふっと身近に感じて、にゃっとして頂ければと思っています。
 この作品、三人の女に対して、一人の男がどんな風に変わるのかもトリプルキャストの醍醐味となっていると思います。一度で懲りずに、二度三度と足を運んでいただけると嬉しいです。
 本日は、ご来場ありがとうございました。

上村 裕子
 今回の作品でトリプルキャストを決めた時は、実に面白いと思っていましたが、役者にとっては一人にかける稽古時間が少ないので、なかなか厳しい現実だったようです。
 ただ、自分が演じながら他の人が演じるのを客観的に見ることができるのはとても貴重な事だったと思います。いつもは演じる側と支えるスタッフ側の双方向で作り上げていくのですが、今回は互いを見つめる目が熱く、稽古場の雰囲気が少し違いました。
 今回の作品では『シチュエーションも台詞も同じなのに』役者が違うと、こうも作品の雰囲気が違ってくるので、役者の個性というものを改めて考えさせられました。
 自分の個性を理解している人は少ないように思うのですが(え、そんなことはない?)一人一人はやはり違っていて、それが面白いということを実感しています。(そうはいっても自分の個性はよくわからないのですが・・・)
 お時間が許せば、その個性の違いを発見しにトリプルキャスト観劇に挑戦してみませんか?
 本日はご来場ありがとうございます。

野口 利香
 当劇団では、毎年の稽古始めに各自「今年の抱負」を述べるのですが、今年の抱負で私は、「役者をやりたい」と述べました。もちろんこれまでも何度か役者で舞台に立ったことはあるのですが、いざ稽古に入ると「自然にそこに存在すること」のなんと難しいことか。歩くことひとつ自然にできない訳です。(そういえば、前回の役者での舞台は、ツボに入って喋る役だったので、動かなくてもよかったのだった。)
 稽古が進むにつれ、できない自分と向き合い、何故できないのか?お前はこうだからだ!と自分を突き付けられ、途方に暮れる自分がいました。では、何故役者をやりたい言ったのか?それは、ただやりたかったからです。苦しい思いをしても、やりたいことがある。やれる場がある。とても幸せなことです。そして本当にそこに存在することが出来れば、何も言うことありません。そして、その場をお客様と共有できれば幸いです。
 本日はご来場ありがとうございました。

金田 恵美
 初めてのトリプルキャスト。最初はどうなるかと思っていましたが、稽古を重ねていくうちに、楽しさが増していきました。さすがにトリプルだと、各々の稽古回数は減るわけで……他の二人の立ち稽古を見ながら台詞の確認をし、基本となる考えを押さえています。同じ役を演じる人が自分一人ではないという事は、自分の芯となる考えをぶれさせるのではないかとの不安もありましたが、意外にそうでもなく、二人の稽古を見ながら自分の事を客観的に振り返る時間を得る事ができました。
 さて、このつぶやきを書いている今、私の初日はまだ先なので、どこか気持ちに余裕があるように思いますが、稽古回数の少なさにさすがにちょっと焦りも感じています。一週目の公演を終えてからがラストスパート。一週目の会場の雰囲気も力にして、二週目に向かって駆け抜けていきたいと思います。
 本日は御来場誠に有り難うございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。

富永 浩至
 最近はあまりないが、芝居をやっていると言うと、「よくセリフを覚えられるね。」と、それこそよく言われた。「いえいえ、何回も稽古するのだから、すぐ覚えられますよ」と答えていたが、実際若い頃はそうだった。稽古しているうちに、覚えようとしなくてもセリフは自然と入っていた。しかし、この頃はまあセリフが頭に入ってこない。セリフ覚えでは本当に苦労するようになった。
 以前、テレビで大滝秀治さんが同じ事を言っていた。でも一度覚えると若い頃とは違い、それは血の通ったセリフになるとも言っていた。私はまだそんな域には到底いっていない……。
 幸い、今回の芝居は再演なので、セリフ覚えの苦労はなかった。それよりトリプルキャストである。もちろんセリフは皆同じなのだが、言い回しや間などが三人それぞれに違う。素直にそれに反応していこうとは思っているが、果たしてそれだけで良いのか。稽古場での試行錯誤は今も続いている。
 という訳で、その苦労をみていただけると嬉しいのですが、えっ、何も三回観てくれと言っている訳ではありませんよ。いや、暗に言っているか。(笑)
 本日はご来場いただき誠にありがとうございます。 

 

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