第80回公演  「消えなさいローラ」
 作:別役 実   演出:富永浩至

 


 スタッフ
  野口利香、上村裕子、小澤厳、大松澤友里恵、片寄晴則  

 キャスト
  女:坪井志展
 男(ダブルキャスト):富永浩至(26日、27日)、清水匠(3日,4日)


上演にあたって

富永 浩至

 何かこの作品とは因縁めいたものがあるのだろうか。緊急事態宣言が延長された時、そう思わざるを得ませんでした。

 チラシにも書きましたが、最初にこの作品を上演しようとしたのは2001年。その時も男はダブルキャストでした。昼間時間のとれる坪井と私の二人で、駅南にあった芝居小屋で稽古していたことが思い出されます。そしてその小屋が取り壊しになったことで、その公演も断念されました。

 二度目は2016年、再びこの作品を取り上げ、上演許可願いを出したところ、別役実さんご本人から「私の作品の中で唯一、これだけは上演許可を出していない」と電話をいただき、再び断念。ちなみにそのとき代わりに上演しようとした「六月の電話」も、私が入院したことで中止になったので、たとえ許可が下りたとしても、上演は出来なかったという訳です。

 そして今回、先の事情で稽古期間の大幅な見直しを迫られ、一時は公演中止も考えました。しかし、どうしても上演したかった、いやしなければいけないと強く思いました。そして急遽ダブルキャストにすることで、本日を迎えることが出来ました。

 さて、この作品、テネシー・ウィリアムズの名作「ガラスの動物園」が下敷きになっています。活動的で理想の高い母アマンダと内向的な姉ローラ、詩作が趣味の弟トム、そして婚期が遅れている姉のために家に招かれるトムの会社の同僚ジム。この4人が繰り広げるお話です。もちろんこのお話を知らなくても、今回の作品は十分に楽しめる内容ですが、もし興味がありましたら、映画化もされていますので触れてみてください。

 本日は、コロナ禍の中、この狭い会場にお越しくださり、誠にありがとうございます。

 

つぶやき

坪井志展 

 この「消えなさいローラ」20年前に上演するはずだった作品です。上演許可が下りないことも知らず稽古をしていました。その時の私の脚本には、後半三分の一位まで「演出のダメ出し」や自分の考えた事などが、ぎっしり書き込まれています。あの頃は「ガラスの動物園」アマンダ(母)とローラ(娘)の二役をやれる事に有頂天だったと思います。

  今回も最初は、同じような気持ちでしたが、実際、稽古に入ってみるとなかなか大変でした。芝居に対する向き合い方を問われているような気がします。どこまでさらけ出せるか、そして、それをどこまで抑えられるか、冷静な自分、俯瞰できる自分。今この時点ではまだまだ課題がいっぱいです。(いつこれが書かれたかはご想像にお任せします)

 諸事情により急遽ダブルキャストとなり、稽古の回数が増えたこと、二人の違った男が訪ねてくることでより作品が見えてきたと思っています。

 本日は、この様な状況の中、工房に足を運んでくださり本当にありがとうございます。

 

上村 裕子 

 本日はご来場、誠にありがとうございます。こんなご時勢だからこそ、お越し頂き、感謝致します。

 皆様は日常、いかがお過ごししですか?私は自宅と職場、そして某スーパーの往復が主で、何とも味気ない生活を続けています。自粛でずっと稽古を休み、テレビを見る時間が増え、パートナーと時々もめる事が増え、なんだかなあ…と思います。またいつの日か、舞台に立てる日が来るのだろうか?どんどん、悲観的に考えてしまいます。

 今回の作品はやっと上演できる経緯のある作品です。もともと人数の少ない劇団ですが、コロナ禍で、稽古への参加人数がどんどん減る中、諦めないという熱量で、今日を迎えています。個人的には、もっと関わりたかったですが、仕方がありません。

 まもなく、開演です。非日常の空間をお楽しみ下さい。

 

 野口 利香 

 昨年の春公演の中止を決断したとき、1年経過後もこの状況が続いているとは思っていませんでした。今となっては、最初は抵抗があったマスク着用も慣れたどころか、していないと下着を履き忘れたかのように落ち着かないし、気持ちも「内向き」傾向と言うか、「私は元々出不精だし、自粛生活は全然苦にならないわ!」なんてことにしている。

 そうだったろうか、休日に自宅でゴロゴロは大好きであるが、たまの飲み会や年に1度の長距離旅行(国内だが)をとても楽しんでいた。誰かと話すときも表情を見ながら話したいし、コロナ禍以降に初めて会った方の素顔を知らないなんて、やっぱり普通ではない。そんな疑問も楽しむ欲求も無意識に封印し、コロナ疲れ?「疲れ」って一体何に疲れるの?と平静を装っているのかもしれません。

 このような状況の中でも、私たちの稽古場では別の時間が流れているようでした。本音でいられる偽りのない時間でした。そして、紆余曲折ありましたが、こうして公演に漕ぎ着けたことをとても嬉しく思います。芝居は生身の人間(役者、スタッフ、そしてお客様)が同じ空間と時間を共有して成立するものです。その時間、その場所に居るからこそ体験できるものです。

 今日此処に足をお運び下さった皆様には、心より感謝申し上げます。ほんの1時間余りですが、この劇空間に身を預けていただければ幸いです。そして、それが当たり前に出来る世の中に、早く戻って欲しいと切に願います 。

 

大松澤友里恵 

 皆様初めまして、昨年入団いたしました。ずっと気になっていた演劇の世界に入りましたが、このコロナの影響により稽古、公演準備に参加することができず……。「つぶやき」を書くこともどうしようか考えましたが、今私に出来ることをと思い、執筆しております。

 ご来場下さった皆様とお目にかかれないのは残念に思いますが、公演日を迎えられ、皆様に観ていただく機会があることはとても嬉しいことと思います。今まで出会ってきたもの、出来事がここへ繋げてくれました。今まで触れてこなかった世界ですが、前作の公演、稽古の風景を見て、私が居たいと思った場所です。

 前作に続き、別役実氏の作品。ミステリアスで毎回観る度に変わっていく風景。すべてを知ることは出来ないが、観る度に面白くクセになる。少しでも今公演に関われている事を嬉しく思います。またいつか、皆様とお会いできる日が来ますように。

 本日は、ご来場頂き誠にありがとうございます。ごゆっくりお楽しみ下さい。


小澤 厳 

コロナの影響が、こんなに長く続くとは思っていませんでした。普段の稽古に制限を受けて参加できない団員もおり、全員揃っての稽古がしばらくできていないのは、悲しい現実です。

 また、コロナの影響で亡くなられた、志村けんさんや岡江久美子さん、その他にも田中邦衛さんや田村正和さんなどの名優もどんどん亡くなられていき、本日の公演の脚本家である別役実氏も昨年亡くなられました。一方では、若い役者さんもどんどん登場され、時代の移ろう速さを感じるこの頃です。

 本日は、お越しいただきありがとうございます。最後までごゆっくりとご観劇ください。

 

清水 匠 

 5月に緊急事態宣言があり、今回も昨年の6月公演と同じように中止になってしまうのかと考えましたが、劇団で話し合い今年は公演を行うことになりました。個人的には役者にもかかわらず半月近く(しかも6月途中まで)稽古に参加できず、劇団のメンバーに多大な負担をかけてしまったので、残りの限られた時間で少しでも取り返せるようにしたいです。

 このような状況下でも演劇に取り組めることのありがたさを噛み締めつつ本番を迎えたいと思います。

 本日はご来場ありがとうございます。

 

 

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