第82回公演  「エダニク」
 作:横山拓也   演出:富永浩至

 


 スタッフ
  坪井志展、野口利香、上村裕子、徳岡里桜、賀来海穏、片寄晴則  

 キャスト
  沢村:清水 匠
  玄田:小澤 厳  伊舞:島影佳季


上演にあたって

 

富永 浩至

 今回の芝居は、舞台経験の浅い人が役者で立つので稽古期間が十分取れるようにと二月にはもう稽古に入りました。読み合わせから始まり、各登場人物の履歴書作りなど、いつもにも増して丁寧につくり始めました。

 しかし、三月から四月にかけて、この十勝でも新型コロナが猛威を振るい、我が劇団もその影響をもろに受けました。ほぼ一ヶ月の間、まともに稽古ができない状態が続きました。最近になり、ようやく落ち着いて来たように思いますが、今一度気を引き締め、しっかりと感染対策を続けたいと思っています。

 さて、そんなトラブルはありましたが、役者たちの頑張りもあり、ようやくゴールが見えてきました。食肉解体という我々の食に直結する、とても身近なことながら、普段全くと言っていいほど意識していない問題を扱っています。

  生命が物体となっていく屠場の現場で、お互いの価値観がぶつかり合う。いや、そのような場所だからこそ、思わず本音が出てしまったのかもしれません。そんな場の雰囲気、臭気まで漂って来そうな舞台になればと、ただ今最後の追い込みに励んでいます。

 本日はお越しいただき誠にありがとうございます。同じ時間と空間を共有してくださる皆様に感謝いたします。

 

つぶやき

坪井志展 

 私を含め高齢化が進んできていたこの集団に朗報です。ここ数年の間に新入団員が五人も入りました。(コロナで出てこられない劇団員もいるので実際の人数が増えた感じはあまりしませんが)

 座付き作家のいない私たちは、少ない人数で出来る範囲の脚本を探して上演しているのですが、選ぶ作品の幅が広がってきます。

  今回は特に、関西出身の彼がいなければ実現しなかった作品です。役者三人が三人とも初顔合わせでの稽古は、どんなふうに進んでいくのか想像もつきませんでしたが、男気のある舞台になるようそれぞれが日々精進を重ねています。劇団演研の新しいステップと言えると思います。

 本日は、演研・茶館工房に足を運んでいただき誠にありがとうございました。

 

上村 裕子 

 四回目のワクチン接種情報が出始めていますが、皆さま、いかがお過ごしでしたか?

  ワクチン打つ、打たない。外食する、しない。マスクする、しない。観劇する、しない。新型コロナウィルスの感染拡大によって、選択する事が増えましたよね。同調圧力に流されるのではなく、自分の気持ちを大事にして、選択し決定したいと思うものの、どうしたらよいかわからない・・・と思う事も正直あります。自分で選ぶと後悔も半分で済むかな?等と思う今日この頃です。

 さて、私が演研にはいって30年。男性だけの三人芝居は初めてです。新しい歴史が刻まれる作品の上演がとても嬉しいです。前回に続き、今回も新人がデビューします。今演研は、団員の年齢差がかつてない幅になっていて、いい感じです。

 色々な選択し、ご来場頂き、誠にありがとうございます。

 

 野口 利香 

 昨年末から今年の春にかけて、三人の若い仲間が加わりました。基礎的な稽古や公演に向けての稽古を通し、芝居に向き合う彼らの真っ直ぐな眼差しを見て、自らの老いを感じてしまいます。

 ついこの間テレビで、私と同年代の某有名俳優が「若い俳優たちと共演するには、彼らの2倍も3倍も努力しなければならないんです。年を取るとはそういうことです。」というようなことを話しているのを見て驚きました。長年数多くの主役を演じている俳優でさえです。

  40代くらいまでは気持ちと身体が一体となっていたと思いますが、今は身体が気持ちの足を引っ張っている感じです。それでも、芝居への想いの灯が消えていないので、身体は努力をし続けます。

 この作品は演研では珍しく男ばか りの三人芝居で、とある職場に起こった出来事を描いています。ある事件をきっかけに、当たり前に過ごしていた日常を失ってしまうかもしれない。誰にでも起こりうることです。日々ニュースでは戦争や災害で大切なものを失った人たちの慟哭が写し出され、心を痛めることも多いですが、私に出来ることはかけがえのない日常の中で努力を続けることです。

 本公演での私の役割は照明のオペレーターですが、眼鏡をかけると手元が見えず、外すと舞台が見えないという、これまでに無いジレンマに陥っています。これが年を取るということなのでしょう。これからも自分の心や身体と向き合いながら、芝居を続けていけたら幸せだなと思っています。

 本日はこの場に足をお運びくださり、誠にありがとうございます。最後までごゆっくりお楽しみください。

 

小澤 厳 

 前回公演「朝顔」に引き続き、今回も役者として舞台に立たせていただくことになり大変光栄に思っています。関西弁が話せることもあり、役を頂戴できたのですが、不慣れな大阪弁の言い回しに、稽古当初は相当苦労しました。台本を読み返すうちに慣れてきたものの、京都生まれの私には違和感のあるセリフが多いと感じています。(笑)

 関西地方では最もタブーとされる同和問題が含まれていますが、おそらく四十年以上前だったらこの台本は世にでることができなかったような気がしています。つまり同和問題というものは時代の流れと共に、徐々にその影を潜めていっているのでしょう。人間が勝手に作った「人が人を差別する制度」など早く消えてしまえと感じざるをえません。

 この芝居はいろんな視点から観ることができると思いますが、ある意味正論と正論のぶつけあいの芝居だと思っています。世の中には正論と正論をぶつけあい永遠に交わることのない世界が多くありますが、双方が歩み寄り、相手の立場を理解し耳を傾けることにより、きっとよりよい結果を導き出せることが多いと思っています。そして平和な愛に満ちた世界を作り出すのは、まず相手の言うことに耳を傾けることがスタートではないでしょうか。
 
 本日は、観劇に足をお運びいただき真にありがとうございます。最後までゆっくりご覧ください。

 

清水 匠 

 今回の作品は「命をいただく」という深いテーマを扱ってはいますが、劇の内容自体はわりと明るいので楽しんで観ていただければと思います。とはいえ、この原稿を書いている時点でまだ一回も通し稽古ができていない状況です・・・正直不安でいっぱいですが、開き直って明るい気持ちで本番に臨みたいです。

 本日はご来場いただきありがとうございました。

 

島影 佳季

 大学を卒業してから約五年ぶりに舞台に立ちます。正直に申し上げると今までで一番苦しみを感じながら稽古に臨んでいました。が、今は違います。役者は深く考える必要はあるけれど悩む必要はないのかもしれないなと思い始めているからです。

 思い返せば初孫で長男という自身の性質を言い訳にして、甘ったれているくせに頼るのが苦手な自分がいることに最近気づきました。26歳にして大発見です。そんな私に劇団の皆さんをはじめ、尊敬する元顧問や友人は「同じ舞台に立つ役者に頼ること」「演出に頼ること」何度も私に伝えてくださいました。本当に感謝しかありません。少しでも人に頼ることを覚えた私をお見せできればと思います。

 話は変わりますが、私の好きなPANPEEという歌手の「Hero」の中にこんな歌詞があります。「あの戦争の犠牲者の中にも未来の芸術家が何人居たろう?きっと彼らのアイディアは空気を伝って、僕らが形にしているこぼさずに」。今年も悲しいニュースが絶えませんが、私たちは生きています。亡くなった方が何かを表現する手段はもうありませんが私たちにはあります。

  今回の劇の稽古期間中、思いつめることも落ち込むことも多少ありましたが、そうやって悩めることも生きているからこそだな、生きているならやるしかないんだなと思うと気が楽になりました。私たちが表現する理由は「生きているから」、それ以上の理由はないのではないでしょうか。

 最後にお世話になった皆様への最大限の感謝を舞台上からお届けします。見届けていただければ幸いです。

 

徳岡 里桜

 昨年入団してから、初めて携わる劇になりました。今までは観客席で完成されたものを観てきましたが、今回、稽古を重ねるたびに変化する舞台や、文字通りの舞台裏を観ることができ楽しかったです。

 

賀来 海穏

 学生の頃に観ていたあの舞台に、今携わる事が出来ていることに驚いているとともに、公演日が楽しみで仕方がありません。

  高校の時に感じていた、演劇という形と、演研に入ってからの演劇の形が異なり、少しずつ自分の中で演劇の形が変わって行っています。仕事や学校終わりに8時から11時まで、3時間集まることが、どれだけ貴重か、そして、それがどれだけ大変なことか。それを劇団の皆さんが今まで長くやってきたということは、中々真似できることでは無いなと感じています。

 入団して三ヶ月と間もないですが、役者の皆さんを手助けしていけたらと思います。

 本日はご来場頂きありがとうございます。お楽しみ下さい。

 

 

 ●戻る No.82.html