代表の片寄が告別式で佐久間に語りかけた弔辞を紹介します。

弔  辞

劇団演研 代表 片寄晴則  

 孝、今日は最後なので、演研の代表者としてより、個人的な思いで話になってしまうけどいいかな。
俺が孝と初めて会ったのは今から29年前、1972年に帯広市の開基90周年記念事業として市内のアマチュア劇団が合同公演をすることになり、その説明会の会場だったな。ブーちゃんが、南商の後輩でいいのがいるので、声をかけてあるから今日来るはずだと言っていたので、どんな奴かと楽しみにしていた。髪を七三に分けてスーツをビシッと着て、母さんの作った弁当を抱えて…。あの日は雨が降っていて傘もってたような気がする。なんかおとなしい神経質そうな、ひ弱な感じの少年だった。
でも慣れてくると、あの頃から駄洒落と猥談が得意なおもしろい奴で、みんなの人気者になったな。一番年下だったこともあって、「孝、孝」って、みんなにかわいがられていたっけ。
堀江君が結婚することになって、木野のあの古い借家に孝が入ることになった。御影から通うのが大変だからという理由だったけど、本当は汽車の時間を気にしないで遊びたかったんだよな。飯なんて全く作れないはずだから、大丈夫かと思っていたんだけど、チャーハンが得意だというので、大内君と食べに行った。具はピーマンだけの、バターたっぷりのしょうゆ味のこてこてチャーハンだったけど、うまかったなあ。あと、卵たっぷり入ったホンコン焼きそば、あれもうまかった。
身体弱くて、すぐ風邪ひいて、あの時は一週間くらい仕事休んでて、なかなか良くならないので、心配だからうちへ連れていって面倒見ることにした。あれがうちの親父と俺と孝の男三人暮らしの始まりだった。俺が結婚するまで、二年くらい続いたな。いつも一緒に遊び回って、森進一ショー観に行って「冬の旅」聴いて、俺たちも冬の旅したくなったと言って、その足で大内君をたたき起こして、三人で夜行列車乗って小樽の海見に行って、帰りにあいちゃんに会いに行って…
俺の弟みたいなもんだから、俺の職場の旅行まで一緒に連れていった。楽しかったな。
さっちゃんと付き合い始めた時も、一番最初にうちに連れてきて紹介してくれてさ。親父がさっちゃんのこととても気に入って、片寄家の長男大内君、次男の晴則と続いて次は三男の孝の番だと、とても喜んでいた。うちの女房と四人で飲みにも行ったな。孝とうちのやつは踊りはあまり得意じゃなくて、俺とさっちゃんが夢中で踊ってて、あの頃は西条秀樹のY.M.C.Aがはやってて、あの振りで踊ったよ。汗びっしょりで席に戻ったら、孝とうちのやつは居眠りしてた。
結婚式の朝、孝はいつも柄物のブリーフはいていたから、白のタキシードにうつったら困るからと、女房と二人で白いブリーフ買って控え室に駆けつけたら、今日はちゃんと白はいているって、無駄になっちゃたっけ。新郎が森進一のものまねして、大受けで全部さらっていって、新郎があんなに目立った結婚式なんてなかったぞ。(右上へ)

ちょっと芝居の話しようか。
初舞台の「銀河鉄道の恋人たち」のカンパネルラ五郎、初々しくて透明感があってよかったなあ。演研の旗揚げの「僕らは生まれ変わった木の葉のように」の若い男はカッコつけすぎだったな。演研の創立に参加したんだけど、仕事の都合なんかで途中2回ほど休団して、1995年の創立20周年の時に「俺も何か手伝いたい」と復帰してくれたとき、俺がどんなに嬉しくて心強かったか、孝、おまえ分かるか!
復帰第一作の「恋愛日記」のスズキ、孝ももう中年になっていて、中年男の淋しさ悲しさ孤独やペーソスが漂っていて、あれはいい舞台だったなあ。でもやっぱり「隣にいても一人」の兄役だよ。演研25周年の記念に平田オリザが、あの平田オリザが我々のために書き下ろしてくれた。演研の看板の富永と志展と上村とそして孝と、それぞれにあて書きしてくれた。親父ギャグをとばした、あの兄の役は孝しか出来ないんだぞ。向こう五年間の独占上演権もらってて、東京公演もする予定だった。誰があの役やるんだよ。孝しかいないんだぞ、帰ってこいよ!
ゴメン。
この会場に孝を連れてくる途中、大通茶館と小屋の前を通ってもらったけど、ちょうどその日小屋が取り壊しになって、きっと孝が一人じゃ淋しいから、小屋を持っていったんだな。いいよ、俺たちはまた次の小屋探して続ける。あの小屋は孝にやるよ。一人で稽古してろ。でも照明や音響のスタッフをそっちにやることは出来ない。演出の俺もだ。しばらく一人で稽古してろ。孝は滑舌が悪いから、しっかりやるんだぞ。いつか俺がそっちに行ったら演出してやるよ。でもまだ、しばらくは行けない。俺たちはこっちでがんばる。芝居の暗がりの中に、一緒に孝がいる。
今までいつも台詞を忘れて、みんなに迷惑をかけたんだから、今度は富永が台詞を忘れたら、そっと降りてきて台詞を教えてやってくれ、いいか、わかったな。
もうお別れだ。俺たちはみんなで頑張るから大丈夫だ。お前はさっちゃんとチーちゃんとあすみちゃんをしっかり見守っているんだぞ。こんなことになっちゃって、もうお前は守ってやることしかできないんだぞ。これは兄貴としての最後の命令だ。3人をしっかり守るんだぞ。サヨナラ、孝。
最後に皆さんにお願いがあります。
こんな場で何ですが、私達は舞台の最後にいつも役者を紹介します。最後に役者紹介をさせて下さい。そして、孝にたくさんの拍手を送ってやって下さい。
「さくま〜、たかし〜!!」
ありがとうございました。

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