第4回 長谷敏幸さん

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今回のゲストは、長谷敏幸さんです。芽室町在住で、今は無き「演研芝居小屋」の電気工事をボランティアでしていただきました。そして毎公演ごとに、時間が許せば2度観てくれる本当に熱心なお客様でもあります。


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富永:(創立30周年の時に作った「30年のあゆみ」を見てもらい)これを見て、どの作品から観だしたのか、思い出せます?

長谷さん:え、どこから観たんだろう。思い出せないなんとかって芝居、ありましたけど、その状態だね。(笑い)

富永:いいですか、最初からいきますよ。まず、旗揚げが勤労者福祉センターでやった「僕らは生まれ変わった木の葉のように」、その後、ランチョ・エルパソでやった「木蓮沼」「気をしずめてよおかあさん」。

長谷さん:その辺は観てないな。

富永:で、大通茶館が開店して、「楽屋」「受付」・・・。

長谷さん:記憶だとこその辺じゃないかな。

富永:はい、うちの観客名簿の記録では、その次にやった「シェルター」からです。

長谷さん:あ、そう。

富永:1984年の第8回公演からです。


長谷さん:あ、そうなの。あ、そう。あれ、富永さんのあれは何年?清水邦夫の、

富永:え、それはずっと後ですよ。僕が清水邦夫の作品に出たのは。

長谷さん:いや、あのレンガの。

富永:ああ、「洗濯船」(※)でやった「朝に死す」ですか。あれね。いや、あれは演研の公演じゃないです。あの時はまだ私は、演研に入っていませんから。

(※自由空間「洗濯船」。1982年〜1985年、現代美術家の佐野まさのさん(故人)が中心になって、街中にあったれんが造りの倉庫を改装したスペース。美術展や音楽ライブ、映画上映、演劇やダンス公演など様々な催し物が行われた。)

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※洗濯船通信。催し物のところを見ると、音楽ライブや写真展、映画上映、演劇公演など様々なイベントが行われている)


長谷さん:いや、もちろん演研ではないんだけど、畜大(帯広畜産大学)の演劇部でしたが、あれは何年でした?

富永:えっとね、私が大学5年のときだから。(笑い)

長谷さん:あの壁づたいにへばりついてさ、あの白い壁さ。

富永:だから前の年じゃないですか、「シェルター」の。1983年。卒業した後、演研に入ったんだから。

長谷さん:あ、あ、そうか。

富永:ああ、そうか。分かった。長谷さんがうちの芝居を観に来るようになったのは、「洗濯船」つながりですね。


(※片寄談:長谷さんが観に来るようになったのは、「洗濯船」で畜大の富永がやった「朝に死す」を観てからです。で、その後、「シェルター」を観に来て、他の劇団が同じ「シェルター」をやったので見比べて、演研が良いんだって、それから観に来るようになったんです。)


富永:いや、つながりました。長谷さんがうちの芝居を観に来るきっかけは何だったのかなって思って。最初、「洗濯船」で私の芝居を観たからですね。で、どうして「洗濯船」に関わるようになったんですか?

長谷さん:最初ね、ブルースのライブを勤福(勤労者福祉センター)でやってたのさ。で、どこから聞きつけたのか佐野さんが、そのライブの時に「頼みあるんだけど」ってやってきて、口説かれたのさ。つまり「洗濯船」を作る前なんだけど、電気の工事をやってくれと。

富永:はい、はい。その、ブルースとか音楽のライブを、ミュージシャンを呼んでやってる人が電気屋らしいぞってことで。(笑い)

長谷さん:それから、そのライブのポスターとかのデザインを佐野さんに頼んでたんだよ。そんなつながりがあったんだよね。ちょっと昔のことだから記憶が曖昧だけど。

富永:で、「洗濯船」を作る時に電気工事をやったんですね。

長谷さん:そう。で、あそこは、色んな人が出入りしていて、面白い人がたくさんいたね。


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※「シェルター」稽古風景。この作品で富永、上村が演研でデビュー。写真は左から、種田栄子、上村裕子、佐久間孝。


富永:それで「シェルター」から観だして、その後「大通茶館」で1989年までやったんですが、いよいよ「演研芝居小屋」を作ることになったんですよ。

長谷さん:ああ、そのときは作業も手伝って、「木蓮沼」はすごかったよね。

富永:はい、長谷さんが電気屋さんだということも知ってて、うちの芝居も観に来てくれていたから、「芝居小屋」を作る時に、長谷さんに電気工事頼みますって、お願いしたんですよね。

長谷さん:いや、そしてね、演研にハマっていたのさ。そんなんで材料費だけでやったね。で、そのこけら落としが「木蓮沼」。

富永:はい。

長谷さん:あの「木蓮沼」の時は、二階席からのぞく感じで観たのさ、今でも色あせずに覚えているけど、白い木蓮の花がぱーっと咲いていて。

富永:え、どうして?稽古を観たんですか?だって、二階は普段、客席としては使っていなかったですよ。

長谷さん:いや、本番さ。

富永:ああ、満席で入れなくて、で、二階から観たんですか?

長谷さん:そう。そしたら、それが良かったんだよね。

富永:「木蓮沼」のセットは、舞台の上の空間に木の枝を這わして、そこに白い木蓮の花をつけて作ったから、客席から観るのとは別の感じがありましたね。


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※演研芝居小屋は民家を改造したアトリエで、一階に舞台と客席、二階が楽屋と物置部屋。舞台部分は天井を取り払い吹き抜けとし、二階の物置部屋からは舞台が覗けた。客席が満席になると、そこにお客様を入れたこともあった。これは、その二階から「木蓮沼」の舞台を撮った写真。


長谷さん:それから余談になるけど、そして思い出すのは、あの小屋の客席のギュウギュウ感さ。冷静に考えると、集中して芝居を観られない気がするんだけれど、あれは良かったね。

富永:今は、そんなことしたら、誰も観に来なくなるんじゃないかな。満員電車じゃあるまいし、知らない人とくっついて。(笑い)

長谷さん:現場での仕事が終わって、疲れて帰ってきてさ。ああ、もう開演時間が迫ってるって、急いで駆けつけて、間に合ったと思ったら、客席がビッチリでしょ。もうちょっと、あとひとり詰めてって。で、暗転になって、音楽がぐーっと高鳴って、そして今までの日常が断ち切られるあの快感。来て良かったって思ったよね。

富永:はい。

長谷さん:日常の煩わしさを浄化してくれるっていうか、有り難かったよね。

富永:なるほど。

長谷さん:演研の芝居は、最初の受付から始まるよね。そこから芝居が始まっているっていうか。だいぶん前だけど、レインボーヴィレッジで別の劇団が公演した時に、もう芝居が始まっているのに、後ろでバッタンバッタンお客さんを出し入れしていて、もう気がそがれてさ。その前に演研の公演を経験していたから、それは分かるんだよ。演研は、受付から、入り口から出口までって感じで、きちっとしてるんだよ。

富永:ええ。

長谷さん:いや、でもね。「道東小劇場演劇祭」をやったり、アフタートークをしたり、その中でまた刺激を受けて。一方的ではなく、他のお客さんの意見を聞いたりして、またそれでも刺激を受けて、他では味わえないことをやってもらっているという感覚があります。


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※2001年、第1回道東小劇場演劇祭アフタートークの様子、ライブホールメガストーンにて。ゲストに十勝出身の鐘下辰男氏を招いた。



富永:そうですね。帯広の他の劇団では、そういうことはしてないですからね。

長谷さん:俺さ、片寄さんには、区切りとか望まないんだよね。それに抗うように、富永さんとかにやって欲しいんだよね。志展さんだって凄いよね。ベケットをやったり、工藤千夏さんとやって、東京へ乗り込んで行ったり(※)。片寄さんは、再演で練りに練って、計算しつくして、さらに磨きをかける。本当に凄いなって思う。茶館にコーヒー飲みに来て、気軽に片寄さんと話しているけど、とんでもないよね。


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(※青年団×劇団演研×渡辺源四郎商店公演「よわくてやわらかくてつよい生き物」作、演出:工藤千夏、出演:大塚洋(青年団)、坪井志展。2012年11月18日〜25日東京公演、その後12月1日2日と帯広公演が行われた。3人目の登場人物は日替わりで色んな人が演じた。帯広では上村、野口、金田が日替わりで出演。)


富永:何を言ってるんですか。(笑い)

長谷さん:いや、本当に楽しませてもらってるよね。

富永:たまには楽しくない芝居もあったんじゃないですか?(笑い)

長谷さん:まあね。そういう時は、すっと早く帰るだよね。(笑い)でも、それは他のお客さんにとっては、楽しいかもしれないし。

富永:ええ、先ほどの話で、「洗濯船」で初めて芝居を観て、その後演研の芝居をずっと観てもらっているんですが、学生時代に芝居をやっていたとかないんですよね。

長谷さん:僕は、バスケット部だったから。

富永:スポーツマンですね。絵を見たり、芝居を観たりはしてなかったんですね。

長谷さん:いや、高校の時は、政治の季節だったんです。

富永:ええ。えっ、やってました?

長谷さん:いや、いろいろね。いろいろあったのよ。

富永:え、ヘルメットかぶってたんですか?

長谷さん:いやいや、正直に言うとさ。まあ、血の気の多い、多感な時期だったからさ。で、仲間たちがさ、校門前でチラシ配っていたら、学生指導部の教師が押さえつけて、親を呼び出したりして、がんがん締め付けを始めたのさ。

富永:はい。

長谷さん:当時、いろんなテーマや課題を抱え込んで、自分のこととして、真剣にやっている仲間、チラシを配って学内の皆に呼びかけている連中に、管理が厳しくなって。そんな時代だったね。

富永:え、その後、高校卒業して、

長谷さん:いや、ちょっと遊びに出たね。放浪の旅にね。

富永:え、どこ行ったんですか?

長谷さん:いやいや、それは内緒。(笑い)炭坑とかでも働いたよ。

富永:へー。

長谷さん:でも、その後、何年もしてから家業の電気屋を継いで、たまたま縁があって、「洗濯船」の電気工事をやって、で、さっきの話に戻るんだよね。完成したあと、自分はブルースのライブをやったり、で富永さんの芝居があって、全体を覚えているわけではないんだけど、やけに富永さんの熱演を覚えているんだよね。

富永:いや、さっきの政治の話ではないけど、あの「朝に死す」って芝居は、さっきの話とピタッと合うんですよ。

長谷さん:そうだねえ。いやあ、でも富永さんが冬のテトラとかで、高校生と交流しながら、彼らの息吹を感じながら、作品をつくっているのは良いと思うね。特に前作。「あゆみ」「反復かつ連続」。あれは刺激的だったね。

富永:ありがとうございます。

長谷さん:空間って何だ、時間って何だって考えさせられたよね。それからループする感覚。ものすごい斬新な。ああいう風にチャレンジしていってもらいたい。ベーシーックなところは、再演を重ねてキッチとやっている。リアルな平田作品をやったり、また、鐘下さんの作品のように、

富永:ああ「いち・ご白書」

長谷さん:ああいう地元の、清水町の熊牛が出てきてみたり、良い悪い色々な評価はあるでしょうが、地元を題材にしたもの、観ている方にはよぎるものがありますね。ここならではのものだと思いますね。いや、どれもこれも、あと別役さんの「トイレはこちら」も、ついこの間再演した、キャスティングを代えてやったものとか。役者さんが違うと本当に違うんだよね。

富永:はい。

長谷さん:で、最後に、誰とは言わないけど、出て来るだけでぷっと笑いたくなるような、あのおばさんがさ、ちょっとだけ出て笑いとってってさ。(笑い)

富永:はいはい。(笑い)

長谷さん:他にもワインコイン劇場(※1)なんかやったり、あの壷の中に入ったりさ(※2)、あのダイナミック。凄いよね。それから何だ、あの茶館のトイレにポスターがあるけど。


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(※1、「命を弄ぶ男二人」作:岸田國士、演出、出演:富永浩至、出演:宇佐美亮の二人芝居。ワンコイン劇場と銘打ち入場料を500円にした。)


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(※2、「芝居」作:サミュエル・ベケット、演出:坪井志展、出演:富永浩至、野口利香、金田恵美。出演者が壷の中に入り、顔だけだし、スポットライトが当たるとしゃべると言う前衛的な芝居。)


富永:ああ「走りながら眠れ」。

長谷さん:そう。あのさ、蝉の声がする中で、さりげない日常の夫婦の話なんだけど、この時代がヤバい方へ向かって行く中で、声高に叫ぶ芝居より、遥かに深いところに刺さってくる感じで。いやあ、ついつい演研さんの話になると熱くなっちゃうんだよね。どれも良いよね、それぞれに良くってさ。「表に出ろっい!」の熱演や、列車の中の、何だっけ、

富永:「思い出せない夢のいくつか」。

長谷さん:あのセリフとセリフの間合い、その時に押し寄せるものとかさ。いやあ、揺さぶられるよね。

富永:いや、人生経験豊富な長谷さんだから、そう思うんですよ。なんせ高校卒業のあと放浪してるんだからね。(笑い)

長谷さん:いやいや、それから、芝居小屋でやったランプがいっぱい出てきたあれ(※3)とか、「空きっ腹で、どうぞ観に来て下さい」っていうあれ(※4)とか。いや、良かったね。


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(※3は「薔薇十字団・渋谷組」作:清水邦夫、演出:片寄晴則、出演:富永浩至、上村裕子)

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(※4、1995年第30回公演、1999年第38回公演(再演)「恋愛日記」、佐久間孝と富永浩至。すき焼きを食べるシーンでは芝居小屋全体がすき焼きのにおいに満たされた。)


富永:ありがとうございます。

長谷さん:いや、俺はさ、片寄さんが、「お客さんを交えた中で、初めてこの芝居が完成する、一つの表現になるんです。」と言う言葉を一つの支えとして、何十年も観続けているんだ。本当にあれこれも演研さんのお陰で、本当に楽しませてもらってます。

富永:いえ、こちらこそありがとうございます。


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