平成23年度帯広市市民提案型恊働のまちづくり支援事業
 「柴幸男の演劇ワークショップ」
 ※ワークショップレポートはこちらから

 

 

 
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柴幸男の演劇ワークショップリポート

記 劇団演研 富永浩至

2011年8月21日(日)午前10時から午後4時
帯広市民文化ホールリハーサル室にて

1.はじめに
 昨年8月に市役所の文化課の方から「市民提案型まちづくり」についてのお知らせがありました。「市民に演劇の面白さを伝えるワークショップの開催などが該当になりそうなので」ということでした。その時すぐに、その年に岸田戯曲賞を受賞し、注目されている若き劇作家・演出家の柴幸男さんのことが頭に浮かびました。氏は、全国各地でワークショップを行い、そこから作品を創り上げる活動もしていました。帯広の高校生たちにも是非、柴さんのワークショップを体験してもらいたいと思いました。それは、一流の芸術家とふれあうことがとても大切だということを、我々が身を以て知っていたからです。1995年に地元の新聞社の主催で、平田オリザさんによるワークショップが9ヶ月間にわたって毎週金土日と行われました。そして、そのワークショップを受講していた高校演劇部の顧問の先生(当時帯広柏葉、幕別高校、池田高校の演劇部顧問の三人の先生)は皆、その後自分の率いる演劇部を全国大会にまで出場させました。しかも柏葉高校は全国優勝まで成し遂げました。もちろん、柏葉高校の全国優勝は2009年ですので、即効性が有るとはとても言えませんが、それはいい作物を作るための土づくりのような、必要不可欠なものだと我々は考えています。今回このような機会を与えていただいたことに感謝しながら、リポートをすすめたいと思います。

2.自己紹介、仲間集め
 まずは柴さんから自己紹介。自分はどういうことを考えて、演劇をやっているのかという話がありました。自己紹介のあとは、さっそくワークショップの始まりです。最初は、仲間集め。たとえば、「好きな果物は?」というお題に自分と同じ果物が好きな人を集め、グループをつくるのです。決められた時間内にグループをつくらなければならないので、とにかく大きな声を出して、自分の意思表示をしなければなりません。基本的に大きな声を出すことは楽しいのです。最初は緊張気味だった顔が、何度か繰り返すうちに、どんどん笑顔になっていきました。

3.10秒スピーチ&ニックネームつけ
 「自分はどうも人の名前がなかなか覚えられないので、あだ名を付けて、それを覚えたいと思います。」ということで、全員輪になって座りました。そこで、一人ずつ10秒間で自分の特技や得意なことを話し、そこからその人のあだ名を付けていくというやり方をしました。10秒と言うのは短いもので、何かを伝えたいと思っても上手くまとめないと途中で切られたり、ほんとに言いたいことを言えなかったりと、なかなかスムーズにいきません。それでも何も言うことが思い浮かばない人には、その10秒がとても長く感じたようでした。皆から出て来たあだ名の中から柴さんがチョイスして、それぞれに印象的なニックネームがついて、大いに盛り上がりました。

4.ラップにのせて
 「つけたあだ名で遊びます。」柴さんはおもむろにパソコンを操作して、ラップの音楽をならします。「このリズムに合わせて、自分のあだ名と隣の人のあだ名を言って下さい。それで回していきましょう」で、一通り回ったら、次は逆回し。「意味の切れ目で、切らなくてもいいよ」単語の途中で切ると、これはまた新鮮な感じで面白い。さすが若者、リズム感のいい子は本当に様になっています。

5.「わが星」
 さて、いよいよ本題に入っていきます。まずは各自に台本が配られます。柴さんが岸田戯曲賞をとった「わが星」の台本です。「まずは、どんな感じなのか、聞いて下さい」パソコンから実際の舞台を録音したものが流れてきます。「わが星」は本当に感動的な舞台で(といっても私はDVDでしか観ていませんが)録音を聞いただけで、ちょっとうるうる来てしまいました。さて、これを高校生たちがどう演じるのか興味津々です。

 まずはグループ分け。「私」「お姉ちゃん」「お母さん」「お父さん」「おばあちゃん」「月ちゃん」「先生」「男の子」の8人の登場人物のグループに分け、さっそく読み合わせが始まりました。冒頭の8ページくらいまで読みました。さすが若者です。きちっとリズムに乗って読んでいました。午前中はここまで、お昼休みをとりました。(下は「わが星」の台本です)

 午後は更に動きをつけていきました。

「周りをよく見て動いて下さい。」どんどん動きが変わっていきます。皆からもアイデアが出て、「あ、じゃあ、そこはそういう風にしましょう」と更に動きを決めていきます。

 「セリフを勢いで言ってます。きちっと相手に投げかけて下さい。ロケット花火みたいにパーッと投げるのではなく、優しく渡して下さい。」動きがついてくると、そっちに気をとられてセリフがおろそかになると、すぐに柴さんからのダメだしです。

 後半になると、皆セリフを覚え台本を持たずに演じます。さすが若者は覚えが早いと驚きました。ほんの2、3分のシーンでしたが、3時間以上かけて作りました。結局完成には至りませんでしたが、皆もプロの芝居は、本当に繰り返し繰り返しやって少しずつシーンを作っていくと言うことが、実感できたのではないかと思います。

 最後に柴さんからのお話です。

「僕はこんな感じで作っています。とにかく、言葉はどうでもいいと言うか、やってみてわかったと思いますが、寝てても言えるようにならないと追いつかなくなります。自分の身体、癖ありますよね。先走っちゃう人、遅れちゃう人、周りの形が見られない人、色々いると思いますけど、僕の芝居ではそれは直してもらいます。自分のことだけを完璧にやりきるだけではダメで、今周りがどういう形で、どうなっているかを知って、それに合わせて自分はどう動かなければならないかを考えなければならないです。それを全員が考えて出来ると、きれいにハマっていきます。僕の好みでいけば、座る時の頭の高さはみんな揃って、同じ速度で座りたいし、円を作る時はもっときれいな正円にしたいです。どうしてもセリフに集中すると動きがおろそかになったり、動きに集中するとセリフがおろそかになります。そこを稽古できちっと直していきます。これはラップ演劇だからと言うことではなく、普通の芝居でも同じです。自分がしゃべっていても、向こうで起っていることを把握していなければなりませんし、今どういう風に見えているかを考えながら動かなければなりません。はい、あっという間でしたね。いろいろな芝居がありますので、皆さんも好きな芝居を見つけて、続けてくれたらと思います。時間ですので、これで終わりにしたいと思います。」

 最後は皆からの拍手で締めくくりました。長時間のワークショップも終わればあっという間でした。本当にお疲れ様でした。

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