第7回公演
受付
作・別役 実
演出・片寄晴則

スタッフ
 舞台監督 片寄晴則  照明 種田栄子  効果 富永浩至  小道具 部田泰恵子  衣裳 上村裕子  制作 清水章子

キャスト
 男・佐久間孝  女・坪井志展

とき
1983年8月20日(土)開演午後7時 21日(日)開演午後3時 午後7時
27日(土)開演午後7時 28日(日)開演午後3時
ところ
シアター&喫茶大通茶館(帯広市大通り南6丁目)
前売り600円  当日700円  (コーヒー券付き)



上演にあたって

片寄 晴則
 別役実の言葉が発する不条理の中の透明感に魅力を感じ始めてから、ずい分時が経っている。その間、役者と演出の立場で各一本の作品を経験したが、幕が降りる度に“こんな筈ではなかった”と、おちこみ、とうとう十年間も手を染めずにいた。氏の作品は「群盲象を撫でる」の例えの如く、部分に囚われ、それに固執した結果、全体を知らずにいる恐ろしさを思うからだ。それを知りつつ敢えて再び手にするとは……。
 最初に作品を手にしたときに読みとったイメージをどう持続するのか、それが自分の課題だと最近つくづく感じている。けいこの過程の中で、まず、登場人物や役者のキャラクターのイメージが変わってゆき、最初と違うことをやっていくうちに、これでいいのではないかと妥協線が出てきてしまうのである。しかし、冷静に読み返す時どこかちょっと違う気がしてならない。その違いを明確にとらえ、最初のイメージに軌道修正する中で、自分の作品の中に何を読みとったかを確認するべく、けいこに臨む毎日である。
 大都市の雑居ビルには、雑多な事務所が同居し、そのビルは都市の迷路、情報の迷路という感がある。そこに人待ち顔に座っているオールドミスの女。「受付」られる男が感じる、生理的な嫌悪感を我々が共有した時、現在の社会情勢の中に身を置く、自分の姿を見る気がする。さて、お客様が「受け付ける、受け付けられる」行為を、どうとらえて下さることやら……。


つ ぶ や き

種田 栄子
 裏と表、人間のもっている性質、この世に生を受け、受付られた一人の人間である私、生きる権利をあたえられた。
 自己との闘いがはじまった。永い年月が過ぎた時、何が残っているのか………。虚構の世界と現実の世界で息をしているどちらの世界でも同じ様に私は息をする。一つの芝居を作りおえた時、己というものを確実に一つみつける事ができる。

上村 裕子
 流されずに生きたいと、いつも思っていた。夢みたこと、望むこと、叶えられない不信感、孤独感、さまざまな心の乱れ、暗中模索な状態の中で演研の扉をたたいた。
  汗がはじけ、心地よい疲労感
  解放されながらも、ふとひきもどされる現実、階段を一歩、一歩登りながら
  ふりむいては、溜息をつく
  ただ、今を進むしかないと、自分に言い聞かせ、夜道を帰る。
いつの日か、夢みたものを手に入れるまで……。

部田 泰恵子
 楽しい時には思い切り笑って、悲しい時には思い切り泣いて、辛い時には思い切り苦しんで、そんな素直な自分を見失しなわないために、演研にいすわっているのかな?!

坪井 志展
 ある日、一匹の猫が、部星に舞い込んできました。私に「芝居をみせろ」というのです。
 次の日には、カッコウ鳥がやってきて「セリフを詩え」というのです。
 次には、たぬきが顔を出し「動いてみせろ」というのです。最後に、ねすみが戸を叩き「心を見せてみろ」と言いました。あのセロ弾きのゴーシュ君は、音楽を心で奏でたけれど……。
 私は、舞台で真実の芝居を観せる事がができるのだろうか……?

富永 浩至
 林立するビルに囲まれた地面の上を、這うように幾人もの人が通っている。ある時、僕たちはそこに檻の中に入った“兇器”を置いた。まったく無遠慮に置かれたそのものを、ある人はちらっと一瞥し通り過ぎて行き、またある人は興味深げに覗き込む。誰もそれに触れようともせず、いつしか立ち去って行く。それは中の“兇器”に興味がないのか、それとも触れることのできないものと最初から諦めているのか、僕たちは考えた。“兇器”は檻の中に入っていたままでは兇器ではない、檻から出さなければならないものだと。果たして、檻からでた“狂気”は“兇器”と成り得るか?この夏の暑い疑問である。

清水 章子
 マンネリー、この二・三年、自分では気付かぬふりをしていたけれど、やはりマンネリー。
 生きる事に情熱がなくなって、唯、生活することに慣れていく、“こんなはすじゃなかったのに−”と、頭をかかえてため息ひとつ。
 陥込みが少ないのは、成長したのではなくて、生活することに毒されていただけ、現実に圧し負けをくっていただけなんて、「典型的な退却病なんですよ、あなたは」受付の女の声が聞こえる。そよそよと、そよそよと私を犯していくとにかく、今は初心にかえって、あの頃の情熱をとりもどしたい。

佐久間 孝
 拝啓 お客様、大変ごぶさたいたしておりました。私、この度、帯広演劇研究会に復帰再入団いたしました。そして早々に役をいただきまして空白の五年の間に妻をめとり、子を一体設け父を亡くしたのてすが、その間何を自分の中に修めたものか試されるようで、楽しみのような恐しいような……実は、ほとんど恐怖です。
 「流れ去るものはやがてなつかしき」などと申される方もあったりする訳ですが、流れ去るものは取り返しがつかず、そのつじつま合わせに、「やるっきやない!」とそうこうしているうちに本日に至ってしまいました。もう、私もこの世界にしっかり受け付けられたんでしょうかね。「お客様もナニの受け付けは済まされましたでしょうか?」「あ、そうですか。」「では、ごゆっくりどうぞ。」
警句

 

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