第26回公演 
薔薇十字団・渋谷組
作・清水邦夫
演出・片寄晴則

スタッフ
照明 福崎米蔵  効果 山原清則  小道具 赤羽美佳子  衣裳 村上祐子  舞台監督 片寄晴則  
舞台監督助手 山田知子  制作 上村裕子

キャスト
北野通・富永浩至  モデラートの葉子・上村裕子

とき
1994年11月
ところ
演研芝居小屋(帯広市西2条南17丁目)
前売り1000円  当日1200円  (コーヒー券付き)

●上演パンフレットより

釧路・札幌公演制作日誌
富永 浩至

1月6日 (木)    
  九四年の稽古初め。体操、発声練習の後、毎年恒例になっている各自の「新年の抱負」と劇団の「活動計画」について話し合う。そして決まった今年の活動のメインテーマは「旅に出よう!」だった。 5月中旬に釧路、下旬に帯広、そして6月下旬に札幌でそれぞれ公演をすると いうもの。作品は「薔薇十字団・渋谷組」(再演)を予定。初の札幌公演に向け、一同気持ちを新たにした。  

3月21日(土)  
 札幌の公演場所の琴似駅前劇場は、倉庫を改造したもので、うちの小屋より一回り大きな、百人ぐらいは軽く収容出来るスペースという話。具体的なことは、札幌小劇場遊戯祭を観に行き、現場で打ち合わせすることにしていた。そして、今日がその日である。遊戯祭の開演前に全員で、劇場の下見に行く。倉庫とは聞いていたが、ある程度の劇場としてすぐ使えると思い込んでいた一同、がらんとした何もない空間を前にして、言葉を失ってしまった。我々の少ない人数で、しかも札幌という遠隔地で本当に装置や照明を仕込み、舞台空間を創れるのだろうか。一同、公演は不可能と諦め、暗い気持ちでその倉庫を後にした。しかし札幌では、帯広の片寄が「こんなところで公演が出来るか」と捨て台詞を吐いて帰ったと、もっぱらの噂 になっていたそうだ。ご、誤解です。      

4月4日(月)  
 一度は諦めたものの、札幌公演の現地 スタッフ(大久保・武田・内山ら)の度 重なる勧めと、劇団内にあった諦め切れない気持ちで(一説によると、やりたが ったのは私だけという話もあるが…)再び始動することになった。時を同じくし て新人(山田知子)も入り、我々は活気づいた。しかし、当初の日程では仕込み などが難しいこともあり、7月3日に変更することになった。また、そのため帯広公演は中止に。

5月4日(水)
 今日は釧路公演のための仕込みに行く 日。二度目の釧路、また劇団北芸とも交 流が深まり、ほとんど自分達の小屋で公 演をする感覚である。札幌から、元北芸の大久保氏も応援に駆けつけてくれ、セッティングも夜には終了。そのまま宴会に突入(本日の主目的はここにあったのかも…)。明日の稽古のこともあり、その夜は早めに切り上げ、全員小屋の二階で雑魚寝をする。しかし、「その後、朝5時までしゃべっていたパアがいた」そうだ(片寄談)。私は誰だか知っているよ、上村さん。

5月5日(金)
  八時起床。起き抜けにエアロビクスを始めるはた迷惑なおじさん(誰?)。すっぴんの顔でボーッと立っている主演女優。寝ぼけながらも、ひたすら残り物を食べている某主演男優やらいろいろである。細かな仕事を済ませ、午後からはいよいよ立ち稽古。慣れた空間とはいえ、帯広より若干広い舞台に戸惑い、動きや位 置取りを決めているうちに、帰帯予定の六時に。もう少しここで稽古したいと いう気持ちを残しながら、帰路につく。余裕を見せる古株に比べ、若人達は緊張の連続で疲れた様子であった。

5月14日(土)
 本番七時  あれこれとやり残した作業もあり、昨夜から釧路入りした面 々は、信じられないことに酒も飲まずに就寝。やはりかなりの緊張があった様子。しかし、朝五時の間違い電話に、上村、富永の両名だけ は起きなかったとか…。ただ一人、今朝着く予定の村上女史。運転歴十四年を誇る彼女だが、何と池田より先は運転したことがないとか。しかし、十時には無事到着し、皆に拍手で迎えられる。(後日談だが、実は浦幌で少し道に迷ったとか。えっ、何処で?)経験の少ないスタッフの中で迎えた初 日。役者にも硬さがあり、スタッフにも戸惑いがあって、今一つ集中出来ない舞台になってしまった。しかし、釧路のお客様の温かな拍手に励まされ、宴会は大いに盛り上がる。北芸の仲間との芝居談議は深夜まで続いた。

5月15日(日)
  本番二時。役者というのは自分でやっている事をなかなか冷静に判断出来ない。だから終演後に「良かったよ」と言われれば、そうかと喜ぶし、「ちょっとね」と言われれば、駄 目だったかと思ってしまう。しかし、今日の舞台は確かに演っていて、お互いの気持ちがすっと通 じ合う場面があった。皆にも良い舞台だったと実感があったのか、昨日と違い顔が生き生きしている。昨夜の芝居談議が役に立った様である。北芸の晶子ちゃんも喜んで涙ぐんでいる。ジス・イズの小林さんも一夜で芝居がこんなに変わるなんてと驚いていた様だ。 打ち上げも、札幌から駆けつけた内山や北見から来た「動物園」の人達などで、大いに盛り上がる。さあ、この勢いで次は札幌だ!

6月4日(土)
 朝八時集合、札幌での第一回目の仕込みに出発する。現地では、札幌在住の劇団員の武田に内山、そして大久保氏、彼の芝居仲間の田中美鈴さんの出迎えを受けた。昼食もそこそこにすぐに作業を始 める。まず、倉庫の清掃、そして舞台造り。打ちっぱなしの凸凹のコンクリートの上に、これまたサイズが不揃いの所作台もどきを並べて舞台にするのだから骨が折れる。それでも何とか格好をつけ、 基本的な照明を吊った頃には、もう九時を過ぎていて、本日は時間切れ。明日に持ち越しとなる。しかし、遅れて参加してくれた、現地スタッフの田原豊氏がきびきびと仕事をこなしてくれ、その頼も しい姿に一同安心。初回の慰労会を軽くすませて、武田宅、内山宅に分宿する。(ススキノが俺を呼んでいたのに…)

6月19日(日)
 前日札幌入りした一同、舞台に上がって大感動。前回造った舞台のガタつきが全く無い。大久保・田原両氏が水平器まで持ち込んで、完璧に直してくれたのだ。午前中の作業中には、突然ブレーカーが落ち、大パニック。その時も、迅速な行動を見せたのが田原氏。作業に対するこだわり、速さなどただ者ではないと思っていたが、実は電気工事を生業としていると聞き、一同納得。 大方の作業も終わり午後からは立ち稽古に。しかし、舞台の広さに役者の二人は戸惑い、感じをつかむのに悪戦苦闘。何とか最後まで通 し、帰る段階になって、米蔵がせっかく吊った照明をはずし始める。帯広でも稽古したいので、どうしても持って帰りたいという。その熱意に負けて、一同渋々手伝い帰途につく。

6月25日(土)
 同じ琴似駅前劇場のもうひとつ大きい倉庫の方で、札幌の劇団「あうた」の公演があり、仕込みの合間を縫って皆で観に行く。山田などは去年まで札幌にいたので知り合いもいたらしく、チャッカリ券売りをしている。そういえば、先週の土曜日に「芝居のべんと箱」の公演を観に行った時も、挨拶だけで帰るつもりが、演目が我々も手掛けた「鏡よ鏡」だったこともあり、つい話が盛り上がって、終電に乗り遅れてしまったとか(私は行けなかったが、公演の宣伝もしっかりしてきたらしい)。しかしこうして、札幌の劇団と交流が持てることは嬉しいものだ。「あうた」の人達も明日、客席作りに協力してくれるとの事。本当に有り難い。

6月26日(日)
 とにかく風邪がひどい。昨日も稽古の後、食事を兼ねて軽く一杯やった席でも、ずっと寝ていた。「富永が何も食べないなんて余程具合が悪いんだ」と心配してくれた(ど、どういう意味?)が、 弱音を吐いてもいられない。今日はいよいよ、皆揃ってリハーサル。三場でのスタンドの出し入れに、札幌スタッフも総動員。そしてカーテンコールの練習。毎回これが一番力が入る。しかし、いつもぶっつけ本番で、口から出任せをスラスラ言う片寄が詰まってしまう。今回ばかりは緊張しているのか、皆の冷やかしに思わず苦笑い。終了後、田原氏が「当たるでこの芝居!」と言っていたのが、印象的だった。さあ、いよいよ来週本番。

7月3日(日)
  本番三時・七時。男性陣+村上女史は、前日から倉庫に泊まり込み。朝早くから起きて、ごそごそと支度をしている片寄に起こされ、皆起床(本当に年寄りは朝が早い)。外はぬ けるような青空。今日は暑くなりそう だ。横浜から坪井も駆けつけ、九時には全員集合。全員揃って、外でエアロビクスを始める。隣の喫茶店の客に奇異な目で見られながらも、皆で気持ちの良い汗をかく。特に坪井は、皆と稽古するのが 久し振りなので、とても嬉しそうだ。それにしても、天気が良すぎて暑い。片寄お姉さんの差し入れの弁当を食べ(毎週、本当に美味しかったです)、通 し稽古に入ったが、上村が暑さと疲れのため、ダウン寸前。本番までもつのか、心配させた(実は私もかなり疲れていて、終演後はしばらく立てなかった)。今年最高の三十度を越える暑さの中、三時・七時とも百名を越す満員の入りとなった。舞台の出来は、緊張と暑さのため今一つだった様な気がするが、十年前に在籍していた元団員達は、久しぶりの我々の芝居に満足してくれた様子。打ち上げは延々、朝の四時まで続いたのだった。

7月4日(月)
 朝八時起床。どの顔も、昨夜(といってもついさっきまで)の酒でボーッとしている。仕込みにあれほどの時間がかかったのに、撤収となると何とはやいことか。清掃を終え、寂しさと少しの満足感 を胸に、札幌をあとにした。見えなくなるまで手を振っている札幌スタッフ、特に武田は涙で顔がくしゃくしゃ。それを見て我々も思わず胸が熱くなった。いろいろなことを学び、交流も広がった釧路・札幌公演。劇団員一人一人が、貴重な経験をしたと思う。「また来年もやろう」と言ったら、片寄が嫌な顔をした。

 

 

 ● 第27回公演へ