第32回公演
あなたがわかったと言うまで
作・杉浦久幸
演出・片寄晴則

スタッフ
効果 上村裕子  照明 福澤和香子  小道具 赤羽美佳子  衣裳 村上祐子  舞台監督 片寄晴則  制作 佐久間孝

キャスト
大介・富永浩至  巻上・赤羽美佳子

とき
1997年7月5日(土)開演午後8時 6日(日)開演午後3時 午後6時 
12日(土)開演午後8時 13日(日)開演午後3時 午後6時
ところ
演研芝居小屋(帯広市西2条南17丁目)
前売り1000円  当日1200円  (コーヒー券付き)  

上演にあたって

片寄 晴則
 これからの演劇界を担う新しい才能に道を開く、日本劇作家協会の新人戯曲賞。第2回目の昨年は全国から75編の応募があり、最終候補に残った6作品の中から12月の公開審査の結果、大賞に選ばれたのが今回の作品です。
 登場する男女のやりとりの微妙なズレから生じる立場の逆転の愉快さ、軽いテンポが気に入り「これは面白い、これを演ろう!」と真っ先に手を挙げたものの、別役実・清水邦夫といった 年代から活躍する劇作家のものを多くとりあげてきた私達にとって、一昨年の平田オリザ氏以来の若い作家との出会いは、思ったよりずっと厄介な作業となりました。
『家族として採用されたいから……毎日毎日、見えない面接があって、笑顔を作り……なんだか生暖かい空気の中で……さりげなく自分を殺し続けていくの……』
劇中の女の言葉にはドキッとさせられました。そう、日常の人間関係の中では、自分を封じ込めていること(私はあまりないのですが……)自分勝手に相手のことをわかったつもりになっている事が、けっこうあると思うのです。夫婦という他人同士の結び付きにおいては特に。そんな事を考えながら稽古を重ねる毎日です。
 今回は赤羽美佳子が初の二人芝居に挑戦しています。自分がどう生きて来たかが舞台に現れるものだと言い聞かせています。ベテランの富永を相手に彼女がどう舞台に存在するか、見守っていただけるとありがたいと思っています。


つ ぶ や き

富永 浩至
 以前にも書いたことがあるが、我が劇団は年当初に各自が一年の抱負を提出する。毎年立派なことを書くのだが、なかなかその通 りには実行できず、稽古納めの時に反省をする羽目になってしまう。
 毎年そんな事の繰り返しなのだが、今年の私の抱負は「ダイエット」。お腹の肉も長年の蓄積と開き直っていたが、「役者をやる人がそんなにぶくぶく太って良いの?」という妻の一言で、決意した。「今にみてろ!」と。まあ、妻の真意はどこにあるかわからないが(多分衣料費が助かるとか、ビール代がうく等だと思うが…)、まんまとのせられた形になってしまった。
 そして晩酌のビールをやめ、仕事がらどうしても遅くなる夕食を抜きにすることで、ようやく効果 が現れてきた。そうなると嬉しいもので、体重計にのるのも楽しくなる。「富永、痩せたんじゃない?」と言われれば、更に嬉しくなって図にまでのってしまう。
 そんな訳で、今回は芝居ではなく痩せた富永を見てやって下さい。えっ、そんなに変わってない?し、失礼しました。

赤羽 美佳子
 春にこの本を読んだ時、「面白い本だな」と思った。少し前まで、二人芝居はとても出来ない、責任が重すぎる、日常の稽古で力をつけてから…と思っていた。でもそんなことを云っていたらいつまで経っても出来やしない。そして、ついに本をもって稽古が始まった。
 演出から連日のようにダメが出る。「感情が見えない」「もっと役を理解して…」他の人が代役で演るとあんなに面 白いのに自分が演ると苦しい。劇中の巻上が言う「理解して下さい…私はどんな人間なのか、ちゃんと理解して下さい…それが義務です」それはそっくりそのまま私自身に向けられている。
 またダメが出る。「今まで生きてきて背負ってきた物、むなしさ、悲しさがあるだろう」そして私は嫌でも自分と向き合うことになる。今まで自分がどう生きてきたのか。自分は人に対してどれだけのことを要求してきただろう、傷つけてきただろう。
 「続けることが才能である」誰かが言っていた。やっぱり続けている私は、芝居が好きで、そこに居る人が好きなんだと思う。いい舞台を創りたい。そう思いながら稽古を続ける毎日です。

一杯のラーメンから
佐久間 孝

 私にはKちゃんという、無類のラーメン好きの友人がいる。近頃では「Kちゃんの食べ歩き日記」なるものまで書き始めたのだ、もちろん演研の常連さん。
 主体性のない小生は、いつしかラーメン党へと―斯くして、今日も新店ニュースを仕入れ、いざ「サッポロ△△チェーン××屋」へ!
 …何だこりゃ、これで六百円、しかも喰っちゃたんだからお金払うわけ、だからオレ、チェーン店なんか信じてなかったのに(時すでに遅しである)
 えっ、皆さんも似たような体験をお持ち「観る前にお金取られて、ほんでもって、つまんなくてもお金返してくれないもの」…あっ、それってもしかして…
 だ、大丈夫、つまり、そのですね、演目によってはね確かに好き嫌いが出ちゃうかも知れません。でも、何だか知らないけど、黒っぽくて少々いかがわしいような空間に迷いこんでしまったときから、何か日常とは違った世界が広がったり、または、引っかかりを覚えたりする瞬間ありません、それって四次元ですから、えっ、全然、さっぱり―
 「いつかは、めぐりあえますよ、きっと…」、毎回、毎回、メニューも材料も、そしてダシも違うんですから―(冷や汗)

福澤 和香子
 私は一人っ子のせいか、人とコミュニケーションをとる事が苦手である。私を知る人は「よく言うわ」と思うかもしれないが、本人にとってはとても苦痛な作業のひとつなのだ。出来る事なら言葉を交わさず、思っている事だけ察してもらえたらこんなラクな事はないと思う位である。
 こんな私なので、気がつくと自分を本当に理解してくれる人は余りいない気がする。じゃあ私は自分自身を100%理解しているのかと云えば、それも相当怪しい。まず自己アピールを自身にする練習からしなくてはいけないと思ったりしているところである。
「演劇か…あと十年私が若かったら…」
この弱気なアピールをキチンと聞いて、入団にまで導いてくれたのが我が主宰である。
 こんな私を受け入れてくれた皆さんに感謝しつつ、実は何かが変わっていく自分にワクワクしている今日この頃なのである。

上村 裕子
 現在、私事で休団中です。
長年、仕事と芝居の両立に時間を費やしてきたので、今の生活は、「こんな時間の過ごし方もあったのか……」という感じがしています。そして、何をどう過ごしても、時は流れるということを改めて考えています。
芝居をやめたいと思ったことはないけれど、休みたいとは何度か思ってきました。けれど、現実休んでいることで、欲が出ます。創りたい芝居がたくさんあります。役者でも、スタッフでも、どんな形であれ、芝居を続けていけるはず。
私はどう続けていくか……今は、暗中模索だけど、大切な仲間との創造活動は大切にしていきたいと思っています。

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