上演にあたって
帯広演研 代表 片寄晴則
公演案内をいただき、上京の際に舞台に接してはいたものの、「思い出せない夢のいくつか」の上演許可を我々がお願いし、しかも公演に足を運んでいただいたのが、私達と平田オリザさんとの実質的な交流の始まりでした。座付作家を持たず、既成の脚本での上演活動を続けていた我々にとって、原作者に観ていただくのは初めての経験であり、緊張と喜びのまじった高揚感で幕を開けたあの日の舞台は、今でも忘れられません。あれからもう5年の歳月が流れました。その間、帯広、幕別、旭川でのワークショップ、札幌での劇作家大会、そして上京の際など、機会がある度に深夜まで酒を酌み交わし芝居談義に花を咲かせ、先の苫小牧公演にも足を運んでいただきました。
昨年の夏、幕別でのワークショップの打ち上げの席のことでした。
富永 平田さん、どのくらいで、脚本を書いてもらえるのですか?やっぱりお金じゃ書かないのですか?
平田 ええ、まあ。
富永 …そうですか…
その後しばらくの歓談の中、突然
平田 ところで、登場人物は何人くらいですか?
一同 エーッ!それって…
という訳で、我々にとって夢のような今回の書き下ろしが実現した訳です。
25年目にして初の私達のためのオリジナル脚本です。一応役者を想定して書いていただいた訳ですが、すぐに自分達のものに出来るとは思っておりません。幸い5年間の独占上演権をいただきました。時間をかけて繰り返し上演することで、平田さんが我々に突きつけたこの不条理劇を、演研の財産として育てていきたいと思っています。2年先、3年先、そして5年先までもお付き合い下さい。そして皆様も我々と一緒にこの作品を育てて下さい。
本日はお越しいただき、ありがとうございます。
つ ぶ や き
ギリギリに追い込まれ
佐久間 孝
・この若僧、出来るなと思った「飛龍伝(初演)」のときの富永。(ライバル心を燃やしたあの頃)
・お眠りシーンで、本当に寝こけていた「ザ・シェルター」初出演だった上村。(このオネエちゃんいつまで続くんだろうと思ったあの頃)
・永遠のライバル(いえ、目標)旭川・劇団河の前で、共に赤っ恥をかいた「受付」以来、十八年振り共演の坪井。(別の劇団での初共演は、現役女子高生の演劇少女で可愛かったあの頃…ホント、ホント)
・そして、炊事、洗濯、お弁当付きの居候から、失恋、結婚、育児に至る実生活でもお世話に成りっぱなしは、この度、離婚まで演出の片寄。(よくぞ、唯一人劇団を二十五年も守り通したものと、今日この頃)
・よっしゃと平田作品の初出演なるも、観ると演るとは大違い。セリフは入らない、動きは無駄、いらない説明演技、語らないだろうよ本音と心情等など。まいった、まいった、ギリギリどころか、なんと今日が本番・・・・
上村裕子
世間の人よりも何年も遅れて「てくてくエンジェル」というものにハマった。ただ歩くだけで育つというその子は、ローソンの景品で我が家にやってきた。「たまごっち」とか、そういったものにまるで興味のなかった私が、何故かはまってしまった。名前は「みゃあ」。ずっと以前に子猫で拾い、車にひかれてしまうまでの一年位を一緒に過ごした彼女との日々は、私の中でずっと温かく切ない思い出になっていて…、だからすぐにそう名付けた。
まっ黒くろすけのようだった「みゃあ」は、パンダのようになり、可愛い女の子になり、そしてスレンダーなお姉さんになった。そして、羽がはえて飛び立っていってしまった。メッセージには「ありがとう!…これからも見守っているよ
…また会おうね」といったものがあった。私は泣けて泣けてしかたがなかった。そしてやっと、私の中で区切りがついたような気がした。心の中の見えない部分にいろいろな感情が眠っていることを、改めて感じた出来事だった。
言葉で言い表せない気持ちを感じさせてくれるから、私はきっと、平田作品が好きなのだろう。そんなことを考えながら、作品に向かっています。
坪井志展
平田オリザ連続公演も、最終回を迎えました。私にとっては、北海道に戻って3年の間に出演した作品全てが、オリザさんの作品という事もあり、今回でやっと一区切りが付けられる気がします。
この作品は、書き下ろしという事もあり、等身大の自分で舞台に上がれるのでは?っと思っていたのですが、稽古が進むに連れて同じなのは年齢だけだ
私自身がそのまま舞台に上がって芝居になる訳が無く、役作りをやり直す羽目となりました。はじめてこの作品をいただいて読んだ時には、とっても面白かったのです。あの時の面白さが今日の舞台の上に少しでも出ていればとおもいます。
年の間に演研の芝居を観てくれた総ての観客に、支えてくれた多くの方々に感謝します。
西部 一晃
入団して早8ヶ月。公演も三回目となり、やっと慣れてきたかな、と思いはじめた頃。ところが全然。作業もアタフタ、照明もアタフタ……。演研のメンバーとして、しっかり劇のサポートをしたいところなのですが、やっぱりまだまだ未熟だなと思うこの頃です。
今回の芝居はゼロからのスタートなので、学ぶことも多いです。芝居は面白いし。とにかく自分はガンバッていきます。
福澤和香子
25周年のなかの僅かな間しか携わっていない私ですが、残りの20余年を作ってきてくださった元団員の方々に感謝です。取りも直さずこの25年を見守ってきて下さった皆様に感謝です。
今回は、平田オリザさん新作書き下ろしということで、いつもと違うワクワクさがありました。どんな本が上がってくるのか、楽しみで、ちょっと恐くて・・・。そしてとうとうそれは上がったのでした。しかも、平田さん同席での初読み合わせ!それは、連日連夜続いた超睡眠不足を忘れてしまう程の感動的なひとときでした。そんなとこからスタートしたこのお芝居。楽しいですよ。乞うご期待下さい。
野口 利香
演研創立25周年企画平田オリザ連続公演の最後を飾る公演がいよいよ始まります。
これは夫婦であり、家族であり、他人である4人の男女の話です。人に唯一、平等に与えられたものは孤独であると、どこかで聞いたことがありますが、なぜ人は人を求め、孤独から逃れようとするのでしょうか。夫婦とは、家族とはいったい何…なんて大袈裟な話しではなく、ごく普通の人たちの、ごく日常的な断片を描いています。
すごい事件も、感動的な事も起こらないけど、4人の会話の中にふと気づくことがあるかも知れません。私達の日常によくある、いろんな小さな出来事。そんなことに一喜一憂しつつ時は流れていくのだしね。
今日は、そんな何気ないひとときをお楽しみ下さい。
金田 恵美
入団して初めての公演が苫小牧公演、そしてやっと芝居小屋での公演を経験できる時がきました。台本をもらってようやく演研の芝居づくりを一から見られるとわくわくしていたのもつかの間、初めてのぎっくり腰も体験してしまいました。芝居だけではなくぎっくり腰とも長いつき合いになるのかと思うと複雑な気持ちですが、これも運命です。
何はともあれ公演です。いろいろなことを吸収して大きくなれたらと思います。
富永 浩至
5年前に「思い出せない夢のいくつか」をやったときに、作者の平田さんが観に来てくれたことは、私達にとって夢のような出来事でした。身の程知らずの私などは、嬉しさのあまり、平田さんがギャフンというような舞台にしたいなどと大口をたたいていました。(結果、自分がギャフンといいましたけど)
そして今回、それ以上の夢のようなこと、新作書き下ろしが実現しました。今や海外でも評価の高い日本を代表する演劇人の一人平田オリザが、何故帯広という地方都市の一アマチュア劇団のために新作を書き下ろしたか、という疑問はさておいて(私などは、その答えは今後の我々の活動が出していく事なのだろうなどと、少々気負っていますが)
何はともあれ、今我々は長年活動してきたことに対する大きなご褒美をもらった気分です。このご褒美を今日お越しの皆様と分かち合うことが出来ればと思っています。
本日は御来場ありがとうございます。