第45回公演
隣にいても一人
作・平田オリザ
演出・片寄晴則

スタッフ
照明 野口利香 館律子  効果 西部一晃  衣裳 福澤和香子  小道具 金田恵美 鈴木えりか  
舞台監督 片寄晴則  制作 村上祐子 宇佐美亮

キャスト
すみえ・上村裕子  昇平・富永浩至  春子・坪井志展  義男・大塚洋(青年団)

上演にあたって

帯広演研 代表 片寄晴則
  一昨年、創立 周年の記念に平田オリザさんに書き下ろしていただいたこの作品は、5年間の独占上演権付きということで、我々の財産演目として、帯広はもとより全道各地そして東京・アゴラ劇場での上演も視野に入れておりました。しかし、2年目の稽古に入ったばかりの昨年6月、兄・義男役の佐久間孝が交通 事故で急死したため、その計画は頓挫してしまいました。
 佐久間を想定して書かれた役でもあり、代役を立てることなど考えてもいなかったのですが、今回、平田さんの薦めもあり氏の主宰する劇団「青年団」の主力メンバーである大塚洋さんが一ヶ月帯広に滞在し、再びこの作品を立ち上げることに協力してくださることになりました。プロの作家が私達アマチュア劇団のために書き下ろしてくださるという夢のような出来事に加え、今度はプロの役者と共演出来るというこれまた夢のような機会をいただきました。大塚さんとの稽古の日々はとにかく刺激的で教えられることも多く、胸を借りて楽しそうに演じる役者達を見ていると、つい演出の立場を忘れ観客としてこの芝居を楽しんでいる自分がいます。
 初演時、帯広に駆けつけ観て下さった平田さんには思いがけない好意的な評価を頂きましたが、まだまだ演り残している部分があり決して満足はしておりませんでした。今回それが何なのか、大塚さんとの稽古の中で少しずつ見えてきております。我々を見守っているであろう佐久間を悔しがらせるような密度の濃い舞台を、と思い稽古場に足を運ぶ毎日が続いています。


客演にあたって

大塚 洋 (劇団青年団)
 二〇〇〇年十月、帯広の演研芝居小屋で世界初演として「隣にいても一人」は上演されました。帯広という地域に根ざし、25年という歴史を育んできた『帯広演研』という集団にある思い入れを込めて平田オリザはこの作品を書き下ろしたと思います。その時、ひとつの文化が帯広から発信され始めたのです。その灯は絶やされてはいけません。「隣にいても一人」は帯広でしか観られない芝居です。この芝居を観たいと日本中のあちらこちらの人達が、いや、世界中の人達が、この帯広に集まって来てくれる事を私は夢見ています。灯を大きくするのではなく、いつまでも絶やさずにいられたら…そしてその灯の輪の中に私も参加させてもらえたら、どんなに幸せでしょう。
 帯広の皆さん、この帯広発の夢を一緒に叶えませんか! …今日も稽古場に一匹の蠅が飛んでいます。佐久間さん、この夢の第一歩はあなたが踏み出してくれたのですよ。

 


つ ぶ や き

坪井 志展  
我家の外壁一面に、絡まる蔦の葉が、赤く色づいたと思ったら、台風と共にみごとに茎だけになってしまいました。毎年繰り返される光景です。でも年々一つ一つの葉は大きくなり、蔓は伸びて小さな新しい葉をたくさん付けています。「隣にいても一人」もそんな作品になればと思っています。今の私は、もう出来ないと思っていた作品に今一度取り組めた喜びと、新たに参加してくださった大きな力に、感謝の気持ちでいっぱいです。

上村 裕子
 昨年の六月二六日、佐久間が突然私達の前からいなくなった。彼は生前、「六〇歳になる頃にはもう少しまともな役者になっていられるように、目標を決めている」と言っていた。志半ばで逝った彼の意志を、残された我々は引き継がなければならないと思う。「引き受けるよ、いつまで出来るかなんて約束出来ないけど・・・」私はそう墓前に誓った。
 さて、今回「大塚洋」というプロの役者を迎えての芝居創りとなった。何と幸運なのだろう。何と幸せなのだろう。悲しいことが多かった昨年に比べ、何と刺激的で楽しい日々なのだろう。今私は、大切に創っていかなければと自分に言い聞かせながら作品に向かっています。

福澤和香子
 「隣にいても一人」の初演から二年。あっという間に過ぎた感がありますが、私の人生の中のどこの二年よりも濃縮された期間であったような気がします。過ぎてみて思うのは、「自分ひとりで生きてるわけじゃあないんだ」ということ。少し大人になった気分です。自分の心の成長とともに同じ作品でも二年経って読むとこうも感じ方が違うんかなぁと思ってしまいました。こういうの「年とった」っていうのでしょうか・・?二年ぶりの方も、そうでない方も、是非楽しんでください。

野口 利香
 道東小劇場演劇際早くも2回目です。しかも「隣にいても一人」です。しかもしかも、青年団の大塚氏を迎えてです。演研に入団以来、とにかく前向きに考えることの大切さを痛感しています。辛くなったときこそ一歩でも二歩でも前に進むべきだと。そうすれば、道は拓けるのだと。それから現状に甘んじることなく、少しでも自分を高めようとする努力をし続けよう。
 かなり疲れそうですが、実際疲れてます。でも頑張ります。

西部 一晃
 いよいよ、『隣にいても一人』の再演です。私も思い入れ深い作品なので、大塚さんを迎えての公演は、とても嬉しい限りです。稽古の時からワクワク楽しい。新しい風が入ってきたようで、魅力的なものを感じました。特に今回は思う所あって、この公演をとても大切にしたいと思っています。皆さんも是非楽しんでいってください。

金田 恵美
 佐久間さんがいなくなった時、いつ何が起きるかわからないからやりたいと思った事を大切にしようと思いました。でも今の安定した生活の中で夢も見出せずになぁなぁと生きていくのか、やりたいと感じたことに飛び込んでいくか、考え始めるときりがないですね。
 さて、今回大塚さんを迎え、とても良い機会を得る事ができました。この機会をどうしていくかは自分次第。今回得られた事を自分の力として生かせていけるようになりたいです。

宇佐美 亮
 ときどき、寂しくなる。一人でテレビを観ているとき、犬の散歩をしているとき、仲間達と酒を飲んでいるときにでさえ感じる、喪失感。街の喧騒にまぎれる、幾多の。なかなか埋まらない。これは特に「人間」不在の今は難しい。だから僕は劇場に足を運ぶのだと思う。舞台の上には「人間」がいて、自分の周りにも「人間」がいて、あたたかい。だから僕は芝居を始めたのだと思う。自分を含め「人間」というものと向き合うために。
 これを読んでいる中には芝居がはじめての方もいるでしょう、どうか肩の力を抜いてください。可笑しかったら笑って、哀しかったら泣いてください。それがきっと、忘れてしまっていたものかもしれないですから。

館 律子
 今回、演研で初めて公演を迎えました。帯広も仕事も車の運転も演研も一年目で、自分のことだけこなすのに精一杯のお役にたてない私ですが、今回の公演の準備はとても楽しく、きっと大切な経験になると思っています。こんなすごい機会を与えてくれた関係者のみなさまに感謝。 そして来て下さったお客様にももちろん大感謝。どうぞ最後までゆっくりお楽しみくださいね。

鈴木えりか
 今回の公演は、私が初めて参加する公演ということでドキドキしています。まだまだ新人の私はなかなか動けないことも多いと思いますが、いろんなことを学びたいと思います。また、今回の作品では「青年団」の大塚洋さんを迎え、プロの役者さんとの共同作業という機会に参加することが出来るということで、この上ない幸せを感じています。稽古する度に変化があり、何度見てもおもしろくて、きっと皆さんにお見せできる時には沢山の変化を経て、もっともっといい舞台に仕上がると思います。

富永 浩至
 とにかく刺激的な毎日である。「まあ、確かにプロは凄いのであろう、所詮我々はアマチュアだし」と口では言うものの、そう変わらないところでやっていると心の中では思っていた。しかし、それは最初の読み合わせで完全に覆された。やはりそれを職業としている人とは、気構えが全然違うのだと、少なからずのショックを受けた。
 今我々は日々の稽古の中で、いろいろと触発されながら、また、的確なアドバイスを受けながら、とても有意義な時間を過ごしている。我々だけがこのような幸せを享受して良いものなのか、とさえ思うほどである。
 今日お越し下さったお客様に、この幸せが少しでも伝わるように、精一杯舞台を努めたいと思います。