上演にあたって
片寄 晴則
演研創立25周年記念として平田オリザさんに書き下ろしていただいたこの作品は、初演から七年、今回で四演目となりました。その間、初演時の兄役であった佐久間孝の交通事故死により、二演目、三演目は平田さんの主宰する「青年団」から大塚洋さんの客演を仰ぎ、稽古を通じて多くの事を教わりました。
そして今回は、その兄役に現在東京で活躍中の俳優、龍昇さんを迎えました。彼は地元三条高校演劇部の出身で私の後輩にあたります。私の初演出の作品に出演してもらって以来(当時彼は明大の演劇科の学生で夏休みの帰省を延長してのことでした)36年振りとなる稽古は、互いに過ごしてきた歳月を想いつつ、刺激的で楽しく、かつ、温かな空気に包まれて進んでいます。我が演研の役者陣も、最初の緊張から解き放されて龍さんとの演り取りを楽しめるようになっているようです。
さて、私たちの新しい活動の場「演研・茶館工房」(因みに命名者は前述の大塚洋さんです。大塚さんはわざわざ東京から壁塗りの手伝いに来て下さり、過日は稽古も観に来てくれました)も、ご覧の様にそれなりの空間に仕上がりました。でも本当に雰囲気のある芝居小屋に育てていくのはこれからだと思っています。今までにも増して精力的に活動を続け、この工房に魂を込め更に魅力的な空間にしていく所存です。本日お運び下さった皆様も「観客」という役で一緒にこの「演研・茶館工房」を育てていって下さい。お願いします。
本日はお越しいただき、ありがとうございました。
9月18日の夜に
龍 昇(龍昇企画)
他人が書いた言葉(セリフ)をあたかも自分の言葉のようにしゃべる事が役者の仕事である。演研の役者さん達が今回四演目になる、他人の言葉(セリフ)を流暢に操る稽古初日に出くわし、おたおたせざるを得なかった。いやー、まいったなと言うのが稽古初日の感想であった。そしてわずか一ヶ月程の間に自分の言葉にしなければならない重圧を受け止めながらの暑い八月二十一日の夜だった。
そして約一ヶ月。四十五年間の深く長い付き合いの演劇の先輩、片寄氏の劇へ向かう愛情に支えられて劇団員全員の約九ヶ月間の作業(労働)で開場したまっさらなこの松の板の舞台空間に立つ事になる。どんな色をこの松の板にしみつける事が出来るのか、それが楽しみでもある。そしてそしてこの板は、一年後、三年後、十年後とどんな人達にどんな色に染め上げられてゆくのか・・・。肌寒くなってきた九月十八日の夜、澄み渡った北の大地の空を見上げながら、想いをめぐらせる。
つぶやき
坪井 志展
佐久間さん、大通茶館の二階が芝居のできる空間になりましたよ!見ていてくれていますよね。工房で作業をしていても、稽古をやっていてもなんだか温かな空気をいつも感じています。初めて「隣にいても一人」をやってからもう七年もたつのですね。今回の夫役は、私の高校の先輩の龍さんです。稽古のたびに驚かされるところは、ちょっと似ている気がします。いなくなってからも二演目、三演目と繰り返して上演してきましたが、少しずつですが芝居が自分のものになっていっている気がしています。これからもずっと見守っていてくださいね。
今日ここに足を運んでくださったお客様へ。
この空間を気に入ってくださったら、何かに使ってください。一緒に茶館工房で作業(コンサートでも舞踏でもその他なんでも)をしてみませんか?
本日は、どうもありがとうございました。
上村 裕子
芝居小屋にわかれを告げてから、ずっと自分達の稽古場兼上演場所を求めていました。今回、とってもステキな我々の空間ができ、こけら落とし公演として「隣にいても一人」を上演できることを幸せに感じています。
前回は大塚おにいさん、今回は龍おにいさんの胸を借りての上演です。
大塚さんには自分を開放をすることをたくさん教えてもらいました。龍さんにはストレートな役者としての感情と作品の中での自分の位置づけを教えてもらっています。「隣にいても一人」は平田オリザさんに書いてもらったという特別な作品です。また、初代兄の佐久間おにいさんの最後の作品でもありますから・・・演研にとって、私にとってやはり忘れられない特別な作品です。
演研茶館工房での第一回目公演においで頂き、ありがとうございます。
私にとっては日々愛着がわく空間ですが、お客様にとっても居心地のよい芝居空間になってもらえるよう、今後も是非一緒に育てて頂きたいです。演研にとって新たなスタートに立ち会ってくださり、本当にありがとうございます。
金田 恵美
とうとうこの日がやってきました。こけら落としです。凄いなぁ、自分達で作り上げたんだなぁ(と言っても大工さんがいなけりゃ無理でした。ありがとね、神山くん)と、鼻高々です。
昔の小屋は、知らない人にはちょっとあやしげで、でもそこには不思議な魅力があって、多くの方に見守られ、愛されてきた空間がありました。この工房もまたそんな空間になれば、と思います。
さて、龍さんを迎えての稽古。毎日が新鮮で笑顔が溢れていました。こんな機会を与えてくれた事に感謝感謝です。
宇佐美 亮
僕が演研に入る前に観た芝居がこの「隣にいても一人」だった。学生の時から演研の芝居を観ていたが、結局この「隣・・・」,「走りながら眠れ」、「思い出せない夢のいくつか」これらの平田作品に圧倒されて、芝居を始めることにした。あれから六年、この芝居は三回キャストを換え、変化を加えながら着実に成長している。三十過ぎて何もなしてない自分とは大違いだ。困ったな。
神山 喜仁
「映画俳優になる!」と友達に言い回り演研の門を叩いて早四年、映画俳優にはなれませんでした。入団したてに稽古していた作品が、再演を迎えていた「隣にいても一人」でした。再演のときもそうでしたが、今回も客演を招いての公演、贅沢なことで、勉強になることがとても多いです。飲む機会も多いですし。
今回は照明の担当となりました。とてもやりがいのある役なので緊張しています。そしてこけら落とし公演なので尚更です。団員全員で造り上げたこの空間がみなさまに公開できることはとても幸せなことだと思いますし、気に入ってもらえれば幸いだとも思います。前回と違ってスタッフルームがちゃんとあるのでしっかり自分の空間作りができて、何か秘密基地みたいでとてもわくわくしますが、しかしそうなりすぎて悪のりしないように心掛けたいと思います。
最後にみんなが観に来て良かったとおもえるような舞台作りができればと思います。
富永 浩至
2001年に演研芝居小屋が取り壊されてから毎年のように、新年の抱負に「新しい芝居小屋を探そう」というのが出た。こういうのを「灯台もと暗し」と言うのだろう。三年ほど前にようやくその事に気づいた。こちらに里帰りしていた龍さんとの飲み会で、大通茶館の二階を劇場にしようという計画を熱く語った事を覚えている。まだ入団して間もない神山に、酔っぱらって「頼む、お前の力が必要だ」とせまった記憶がある。色々とクリアしなければならない問題があって、すぐには実現しなかったが、あの時の話が今ようやく形になった。そして、その龍さんが今回のこけら落とし公演に客演してくれる事になったのも、何やら因縁めいたものを感じる。
この「隣にいても一人」は、今、全国各地で上演を予定している。今月は三重で、その後は広島、青森、熊本と続き、来年一月には一堂が東京に集まり公演する事になっている。我々もそこに元祖(?)として招かれている。青年団の人に聞くと、我々が最年長キャストだそうだ。7年前から替わらすにやっているのだからなぁと納得してしまった。