第64回公演  「走りながら眠れ」
 作:平田オリザ  演出:片寄晴則

 スタッフ
  照明:野口利香  効果:宇佐美亮  小道具:金田恵美  衣裳:村上祐子  制作:上村裕子

 キャスト
  男 富永浩至   女 坪井志展


上演にあたって

片寄 晴則

 この作品は、明治から大正にかけて短い生涯を駆け抜けた大杉栄と伊藤野枝が、関東大震災の混乱の中で虐殺される直前の最期の2ヶ月間の日常生活を、作者の目を通してスケッチ風に描かれたものです。
 自由恋愛を唱え、アナーキストと女性解放運動者として、互いの思想とその生き方を尊重し合い、同志として深い愛に結ばれた男と女。ラジカルに生きた二人ですから、その日常もさぞかし・・・と思ってしまいますが、ここでは実に淡々とした生活が繰り広げられます。ところが、その生き方の背景を少しでも知っていると、何気ない会話のひとつひとつが実に示唆に富んだものとなり、想像力を喚起し興味深いものに思えてきます。
 しかし、たとえ二人についての予備知識が無くても、実際のところ、生活とはこのように淡々と時が流れてゆくものだと、改めて感じていただけるものと思います。
 98年の初演以来、釧路・北見・苫小牧・鹿追・札幌を巡演し、2004年の第4回道東小劇場演劇祭を経て、六演目となる今回ですが、未だに飽きることなど全くない作品に巡り会えた幸せを感じながら、日々の稽古を重ねて参りました。
 多分、本日の客席には既に何度もご覧下さったお客様も多いことと存じますが、初演以来14年、前回公演から八年の年月を経て、役者も歳を重ねた分、少しは成長したと感じていただけたなら、この上ない喜びでございます。
 本日のご来場、ありがとうございます。団員一同、心よりお礼申し上げます。

 


つぶやき

坪井 志展
 入団した時から自分の稽古ノートを付けているので、もう何十冊にもなっています。先日、ふと初演の時の稽古ノートを開いてみました。そこにはこんな記載が・・・
 『今、幸せです。充実しています。北海道を離れて6年。今年5月に帯広演研に戻ってきました。7月にはもう舞台に上がっています。夢のような事です。私にとっては3度目の芝居小屋。誰が何を言おうと、何を言われようと、私は自分のやりたい事はやり抜く』
 芝居ができる喜びと舞台に上がる不安が蘇ってきました。その後、この作品が、一番数多く稽古した作品となり、また一番多く舞台にたった作品になりました。何度もやっているのに14年たった今も、私の喜びと不安の入り混じった緊張感はちっとも変わっていません。
 本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。

上村 裕子
  再演というのは、作品創りをする側にとっては新しい気づきや発見があってとても有意義ですが、観客にとってはどうなのか?といつも思います。
 新作でも再演でも、一つ一つの作品に時間と愛情ををかけて仕上げるので、是非一人でも多くの方達に観て頂きたいと思うのですが。なので、8年ぶりとはいえ、本日来てくださった会場の皆様にはいつにもまして「ようこそ」という感謝の気持ちでいっぱいです。今回の作品は特に、今まで観てくださった方達が一緒に育ててくれた作品なのだと、稽古中に何度も思いましたので・・・。
 好きな映画を時間をおいて見ると、作品自体には何の変化が無くても、環境の変化や加齢のためか、感じることがすごく変わるということを、私は何度も経験しています。
 この作品と初めて出会った方、すでに何度かご覧頂いた方、何を感じられたか・・・観劇後に率直にお聞かせ頂けると、とても嬉しいです。

野口 利香
 私が演研に入団して最初の公演が「走りながら眠れ」でした。そして、演研の公演を一度も観たことがなく、どんな芝居をする劇団なのかも知らずに飛び込んだ私に「ああ、ここはこういう芝居をするのか」と知らしめた訳です。
 それからはや14年、ここに居続けたい思いで稽古場に足を運んだ日々の中で貴重な経験をさせていただきました。私個人は年数の割にはなかなか成長出来ないでいますが、この芝居は初演から確実に成長しています。
 革命家と言われた大杉栄と伊藤野枝という男と女の日常における息づかいを感じていただけたら幸いです。 本日はご来場、ありがとうございます。

金田 恵美
 本日はご来場頂き有り難うございます。
『走りながら眠れ』、私が初めてこの作品と出会ったのは、もう10年以上も前の事になります。大学で芝居を始め、仕事で帯広へ。家と仕事の往復の毎日に刺激が欲しくて、演研の戸を叩きました。入ってすぐに苫小牧公演。その時の作品が『走りながら眠れ』でした。あの頃は何を手伝えば良いのかもわからず、右往左往していましたが、出立て公演はちょっとした旅気分で楽しかったのを覚えています。
いつの間にかこの作品が、演研作品の中で一番好きな作品となっていました。いつか自分達が作った工房で上演できたら・・・という夢が叶いました。仕事やら体調不良やらでなかなか稽古に参加できずにいたことが悔しいですが、この作品にまた触れる事ができた嬉しさを胸に公演を楽しみたいと思います。

富永 浩至
 昨年の春、青年団で「平田オリザ演劇展」と銘打ち、平田さんの短編や中編の戯曲を一挙上演した。その中の一本にこの「走りながら眠れ」があった。そこで「女」を演じた能島瑞穂さんは、10年ほど前、青年団の幕別公演の際に大通茶館を訪れ、トイレに張ってある演研の「走りながら眠れ」のポスターを見て、いつかやってみたいと言っていた。それが10年越しで実現したのである。
 何度も上演した作品が、平田さんの演出で再演されるということで、うちのメンバーも東京まで観に行った。私は残念ながら行けなかったのだが、先日その公演がDVDになったことを知り、さっそく買い求めて、観た。
 そこで、二人の役者、能島さんと古屋隆太さんが、実にのびのびと、そして楽しそうに演じていた。ちょっとうらやましくなった。自分の中で、ある種の不自由さを感じながら演じていたのを思い出したからである。そして、今ならもう少し違うように演じられると強く思った。でも、まあ再演することはないだろうと諦めていた。しかし、春の演目として候補に挙がっていたものが次々と没になり、ついに演出からこの作品をやろうとの提案があった。演出も青年団の「走りながら…」を観て、思うところがあったのだろうか。
 そうして稽古に入ったのだが、強く思った割には、これがなかなか上手くいかない。何度もやっているので染み付いてしまっているのか、自分で思うほど成長していないのかは分からないが、気持ちだけが空回りしているようだ。舞台上で自由にいることをもう少し考えてみたい。自分がそうあることと、外からそう見えること。同じようでいて、少し違う。また、そうであるから楽しいのかもしれない。本日の舞台、皆さんと楽しめたらいいのだけれど。

 

 

 

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