「杉山至(青年団)の舞台美術ワークショップ」レポート
1日目

記 富永浩至  

5月19日(土)午後7時
 今日のお昼の飛行機で帯広入りした杉山氏。さっそく、大通茶館の2階へ上がってもらい、改造中のスタジオを見てもらいました。「想像以上に良い空間になりましたね」とお褒めの言葉をいただきました。
  さて、杉山至氏のワークショップ、午後7時に開始です。
  まずは自己紹介から始まりました。以下要約です。
「国際キリスト大学在学中に青年団に入ったが、その後、舞台美術をやろうと思った。しかし、学校がない。一番近いのは建築だと思い、早稲田の夜学に通った。そこで、ワークショップと出会った。もともとワークショップは建築から始まったもので、工房という意味である。図面にひいたものを工房で作り、実際の動きと図面をすり合わせるというような事をしていた。ワークショップは、教授型でものを教わるのではなく、知覚(五感)を使って発見していく方法。私は皆さんから出て来たものを深くする、講師と言うよりナビゲータです」というような事を話してくれました。
 という事でワークショップ、スタート。
ホワイトボードに書きながら、パフォーミングアートの事なども話してくれました。今回の一般参加4名、プラス演研団員です。

 

WS1『中心をさがす』
 杉山さんはA4の紙を各自に配り、「この紙の中心を探して下さい。そして、自分の位置も決めて下さい」中心というと真ん中、え、簡単じゃない?と思いましたが、説明を聞いていくとどうもそうではないらしいのです。自分のイメージの中での中心。「紙と対話して中心を探して下さい。芸術に正解はありません」「中心を見つけたら、今度はそのイメージを形にします。紙はメディアです。相手に何かを伝えるものです。曲げても良いですし、折っても、切ってもいいです。イメージを形にして下さい」

皆さん戸惑いながらも、中心を探していきます。いきなり千切りだす人、びりびり破きひも状にしていく人、何度も何度も折る人、本当に様々です。

「はい。出来ましたら、お互いに自分の中心を説明して、仲間を捜して下さい。そして、似ているもの同士で2,3人のグループを作って下さい」杉山さんの次の一言で、みんな一斉に仲間捜しです。「グループが出来たら、何処が共通で何処が違うかを発表してもらいます」

ただ今、仲間を探し中。なんとか共通点をみつけ、グループを組みます。どうしても共通点が見つからない人には、杉山さんがアドバイスをします。その視点が鋭く、「ああ、なるほど」と納得させられます。
で、グループ発表です。一人一人、自己紹介をし共通点と違う所を話していきます。
 こちらは「ぐじゃぐじゃ中心がいっぱい」グループです。それぞれが紙をぐちゃぐちゃにしています。金田などは、手元が見えませんが、細かくちぎった紙を大事そうに持っています。
こちらグループ名、「ザ・ズレ」。右の2人は紙を筒状に巻いて、形がそっくりです。でも、中心が違います。1人はすぼまっている方が中心で、もう1人は広がっている方が中心。確かにズレています(^_^;)。
 他には、中心が真ん中にあり、自分が中心に向かっている「中心に向かうグループ」、これに私と片寄が入りました。上村と村上さんの「みるU」グループ、2人とも自分の位置から中心を見ている構図になっています。上村は紙をみんなの方へ向け、「この上の端ギリギリの所に私がいて、中心を見ています」と説明していました。今の精神状態がギリギリなのではとツッコミを受けていました(^_^;)。「明日は明日の風が吹く」グループ、坪井と宇佐美です。坪井は紙の端を丸め、それによって出来る影の真ん中に中心があると説明していました。自分が動くと影も動くので、中心が動くという事だそうです。杉山さんも中心が動くという人は初めてと言っていました。
私のはこちら、とんがっているのが中心です。杉山さんに「こんな広い北海道に住んでいて。そんなに険しい山にする事はないんでは」と突っ込まれました(^_^;)。

「パフォーミングアートは、絵画などの『ファインアート』とは違い、様々な人が関わって出来る、いわば対話の芸術。なので、いかにイメージを共有できるかが大切となる。そして必ずズレがでる。しかし、そのズレによって、一人では行けなかったような次の段階に行けるのではないかと思う」と言うような事を話してくれました。
 しかし、同じ事をやっても人によってこの違い。性格がとてもでていて面白かったです。ちょっと、休憩をとり、次のワークショップに入りました 。

 

WS2『空間ワークショップ』
 ワークショップを始める前にちょっと舞台美術のお話しです。(下の図参照)

 例えば、何もない舞台にAとBが歩いてきます。これだとAとBの関係がよく分からないのですが、そこに階段という装置を置く事によって、上下関係が生まれます。さらに椅子などを置くと、さらに身分の差がはっきりします。(宝塚などの舞台によく見られます)
 また、扉などを置く事によって、空間が仕切られ扉を挟んで、違う空間が出来あがります。このように空間に装置を置くだけで、異空間が出来上がるわけです。

 

 「さて、これから気になる空間をスケッチしてもらいます。この建物の中、いろいろ探して自分の気になる所を見つけて下さい。そこは、素敵なのか、キレイなのか、気持ちがいい、恐い、または不気味なのか。空間と対話して下さい」という事で、私たちはさっそく「気になるところ」探しを始めます。

こんな所(ベランダ上部の天井裏)に上がる人もいました。
下に降りていき、一階の物置部屋でスケッチする人、階段の所に座って、低い位置から廊下部分をスケッチする人など、いろいろです。
ちなみにこちらは私のスケッチ。1階の物置部屋の奥です。一度2階の水道管が破裂して水漏れを起こした時に、天井が崩れてしまったものです。暗闇に水道管や下水の管が見えますが、それが内蔵のように見えるのが気になりスケッチしました。

それぞれスケッチが終わったら、再びグループ分けです。似ているところがある人同士がチームを組みます。
「4,5人でひとチームになるようにして下さい。そして、チームに分かれたらそれぞれ、チーム名を決めて下さい」
そして発表です。

まずはこちらのチーム。チーム名「光と闇のフラミンゴ」。このネーミング、よく分かりません(^_^;)。一階のドア越しに部屋の中を描いた人や階段から部屋をのぞいている構図で描いた人など、4人とも「切り取った空間に入る」視点で描かれているところが共通点です。ちょっと見づらいですが、下の写真です。

 

次はこちらのグループ。「見上げてごらん、あの交差を」グループです。こちらのチームは、すぐ仲間が見つかりました。下の写真でお分かりでしょうか?どことなく木の感じがあり、温かい感じがするのがこのグループの特徴でもあります。
最後のグループはこちらの面々、プラス私です。グループ名は「影と闇」。先ほどの私の絵を見ていただけると分かると思います。共通点は闇があるところ、そしてその闇の中に別な世界があるような感じがしました。「見上げてごらん、あの交差を」グループと対照的で暗く、少しグロテスクな感じもします。
それぞれのグループが自分たちの共通点などを発表した時点で9時近かったのですが、明日は都合で参加できない人が多いという事で、時間を延長して続けました。
 「空間にパフォーマンスを持ち込む」です。
「このグループで、これから5分ほどのパフォーマンスを作ってもらいます。ただ作れと言っても難しいので、こちらでテーマを言います。『家族の崩壊と再生』です。皆さんがスケッチした空間から、物語を発見して下さい。まず、やる事は
・タイトルを決める
・登場人物を決める
・観る位置を決める(お客さんの観る場所です)
では、30分で作って、5分で発表しましょう」
こちらのチームは1階の物置部屋を使って発表することにしました。神山、宇佐美に一般参加者2名のグループです。
こちらのチームは、それぞれが描いた脚立や柱を使って何かできないかと相談中です。片寄、村上、そして一般参加者2名のグループです。

 私の入ったチームは、演研メンバーだけです。平田さんのワークショップを何度も受けているので、お話作りは割とすんなりいきました。チーム名「影と闇」という事で、引きこもりを題材にしました。家族の中にひとり引きこもっている人がいるのではなく、一人だけ引きこもっていないという設定です。
 タイトルは「天井裏の人々」。 上村がスケッチしたの天井裏の空間を使い、そこに母親と姉妹が引きこもっていることに。父親が帰ってきても、家族の会話はなく、コミュニケーションは天井裏から降ろされるヒモにくくりつけられているバケツのみ。父親が「ご飯は?」というと、そのバケツの中に食事を入れて、降りてくるだけという具合です。これは坪井がスケッチした「天井からたれているヒモ」から発想しました。そこに本妻(実はここは父親の愛人宅)がハサミを持って入ってきて、「いい加減にして、あなたのいる場所はここじゃないでしょう」と彼らのコミュニケーションの道具であるヒモを切って、夫を連れて帰るというところで終わりです。
  その様子を天井裏からのぞく3人の無表情の顔が怖かったと、観ていた人の感想です(^_^;)

 

 こちら「光と影のフラミンゴダンス」チームです。一階の玄関と物置部屋を使ってのパフォーマンスです。写真にある明かりを効果的に使っていました。玄関も使うので観る人たちは邪魔にならないように壁に張り付くように観たり、階段からのぞきこむようにして観ました。
 タイトル「帰っておいで町子」。初めはこの明かりは消えています。そして、ドアも閉まっています。ドアにはすりガラスが入っているので、中の様子はぼんやりと見えます。「なんでいつもそうなの。もう知らない!」中から争う声が聞こえ、「パシーン」と頬を打つ音が聞こえたかと思うと、ドアを開け女の人が駈け出て来ます。そしてそのまま、玄関を開けて外へと飛び出して行きました。部屋の中には情けない顔をした男がぼんやりと座っています。(この役は宇佐美がやっていて、笑いを誘いました。)そこへこの夫婦(だったんだ!)の息子が出て来て、明かりをつけて一言。「行かなくていいの?」その言葉で男は立ち上がり、出ていった女を追いかけて外に出るというお話しでした。短いパフォーマンスでしたが、最後にあわてて出ていった宇佐美が外でズルッと転けるオマケもあり、笑いを誘っていました。

次は、「見上げてごらん、あの交差を」グループです。このグループは、役者がいないのでセリフは喋らないということで、このパフォーマンスになりました。
 4人が背中を合わせあい、それぞれが共鳴するように動きます。そして男が呼びかけるようにそれぞれの名前を呼びます。女たちは、その呼びかけに呼応するように体を動かします。ところが呼びかけていた男が突然倒れてしまい、それまで一緒だった人たちはバラバラになり、それぞれが壁、柱、脚立の所へ行きそこで反復運動を繰り返します。男が立ち上がりハシゴにのぼり、再び呼びかけるとみんなが集まり再生するというパフォーマンスでした。

 

全部のグループが発表が終わり、初日のワークショップ終了です。
  「このワークショップは行う場所によって、違ってきます。公共ホールなどでやるとなかなか豊かな発想が出て来ません。この空間が皆さんのパフォーマンスを豊かなものにしたと思います。そして、今日ワークショップをやった事で、演研の皆さんにもこのスタジオの方向性が見えてきたと思います」
 そして、この場で懇親会です。片寄が腕をふるい、数々の料理が出て来ました。ワークショップをふり返って、話に花が咲き、そしてお酒がすすみました(^_^;)。

で、翌日に続くです。
2日目の様子はこちらから

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