北海道新聞(夕刊)2000年10月14日(土曜日) 17面より

「役者の初々しさに好感」

平田さん写真

 劇中何もおこらず、ただ淡々と日常の断片を描き、その分観客の想像力を喚起する「静かな芝居」としてファンを魅了する劇作家平田オリザさん(38)。その作品は海外でも翻訳され高い評価を得ている。7日から始まり、15日に千秋楽を迎える帯広の劇団演研(片寄晴則代表)の創立25周年記念公演「隣にいても一人」は、同劇団のために平田さんが書き下ろした新作として話題を集めている。公演初日に帯広に駆けつけた平田さんに、演研との交流や作品を書くことになった経緯などを聞いた。

(帯広報道部 水上 晃)=4面「ショット」参照

平田オリザさんに聞く

  劇団演研との交流のきっかけは。

5年前に十勝で初めてワークショップ(基礎講習)を開いた時、演研のメンバーが参加してくれました。その後公演に僕の作品を取り上げてもらい、舞台を拝見しました。活動の拠点である演研芝居小屋(帯広市西2南17)の雰囲気がとても気に入り、観客の質やメンバーの人柄などにもひかれ、つき合いが続いています」

  地方のアマチュア劇団に新作を書き下ろしたことで話題になっています。

「職業として芝居をやるようになって、仕事とは違うところで一、二年に一本はやりたいという気持ちは常にありました。僕も出発は小劇場なので、やっぱりこういう場所(芝居小屋)が好き。全国の気に入った小屋だけを回って芝居をやれたらどんなに幸せか。仕事を離れて本当に芝居が好きな人たちと、純粋なところでやりたい。自分が芝居を始めた原点を思い出させてくれるエキサイティングな部分で書くことを忘れたくない。話しがあった時、仕事の都合が付いたので引き受けました」

  演研は12月で25周年を迎えます。

「劇団が続くか続かないかは偶然の積み重ね。その内容が問題です。アマチュアの枠組みの中で高いクオリティーを追求していく演研の姿勢はすごい。中央志向を持つ劇団があふれる中で、帯広にとどまることを宣言しつつ高い質を維持する。代表の片寄さんの努力もあるでしょう」

  演研の役者をどうみますか。

「それぞれが帯広での生活を背負っているので、東京の役者には出せないアジがある。中央では次の仕事につなげるため、芝居で一番大事な作品に対する忠誠心よりも自分がどう目立つかを考える役者が多い。演研の役者はいい意味でのんびりしている。自分がどう目立とうかなんて考えない。作品が出来て台本の読み合わせにつきあったのですが、東京では当たり前のことなのに、演研のみなさんは僕がその場にいることに驚き、緊張していました。その反応も新鮮で初々しく好感が持てました」

  十勝では5年前に続き、昨年も幕別町でワークショップを開きましたね。

「ワークショップに参加した高校生を見ていると本当に伸び伸びしている。時期が来て就職や進学で地域から出ていく人も多いでしょう。それはしょうがない。長い目で見れば、十勝は芝居が盛んなんだというイメージを持たせることができるかどうかです。やろうと思った時にそのイメージがあれば、きっと芝居をやるために十勝に戻ってきます。そういう意味でも地域の核となる演研のような存在は貴重です」

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