第72回公演  「びんぼう君」
 作:前田司郎   演出:富永浩至

 


 スタッフ
  坪井志展、上村裕子、金田恵美、村上祐子、鈴木えりか、片寄晴則
  

 キャスト
  父:富永浩至  子:清水匠  3:野口利香   


上演にあたって

富永 浩至

 前回の「新人お披露目公演」が2003年の「救いの猫・ロリータはいま・・・」なので、13年ぶりの新人お披露目公演になりました。新人が舞台に立つ時に、必ずしもお披露目公演をする訳ではないのですが、新しい団員が増えていないというのも事実です。13年前にお披露目された新人たちも、その後仕事や結婚などの理由でやめていきました。このような活動を続けることは、やはりなかなか難しいことようです。今回の新人、清水匠には長く続けていって欲しいと切に願っています。

 さて今回の演目は、前田司郎作「びんぼう君」。私が、前田さんの劇団「五反田団」を初めて観たのは10年ほど前。当時「脱力系」と呼ばれ人気を博していました。その舞台はまさに力が抜けていました。セットも何もない簡素な舞台に、これまたシンプルな照明。役者たちも一見だらだらと演じているように見えました。

 万年床のきたない部屋に住む主人公は、その部屋から一歩も出ずに、ゴマだけを食べ、即身仏になるのだと言います。「ゴマの精」が出て来たりと、一風変わったそのお芝居、しかし終盤、その男が死に際に見た夢なのか、彼女と温泉旅行にいくシーンは本当に見事で美しいものでした。今まできたない部屋だった場所が、一瞬で旅先の温泉街に見えてくるのです。観客の想像力を使った、まさに演劇の力を見せつけたシーンでした。このような舞台を創る人に会ってみたいと思っていましたが、2012年の道東小劇場演劇祭のゲストに来ていただき、実現しました。前田さんは、このような演劇祭を行い、またそこに多くのお客様がいらしているのを見て、この土地はとても民度が高いとおっしゃっていました。

 で、今回の我々の芝居。初舞台の清水と、出演しながら演出もしなければならない私と、当初稽古はなかなか思うように進みませんでした。しかし、本番が近づくにつれ、出演者三人の呼吸も徐々に合い、舞台が弾むようになってきました。本番当日には、お客様の想像力をお借りして、何か美しいものが舞台に現れるようにと、日々稽古を重ねています。

 本日は、この小さな空間に足をお運びいただき、誠にありがとうございます。どうぞこの場で共有した時間が幸せに感じられますように。

 


つぶやき

坪井 志展

 このお芝居では、プロンプターをかってでました。プロンプター…?とは、前回の「楽屋」をご覧になっていただいた方はお分かりだと思いますが、役者のセリフが止まった時に教える役の人です。脚本のセリフを目で追っているはずなのに、ついつい芝居に見入ってしまいタイミングを外してしまったり、私自身が役に立ったかどうかは何とも言えません。でもこのような形で作品にかかわれた事が新鮮でした。ただただセリフを目で追っていることで、脚本に対する自分自身の思い入れや、先入観がだんだんと薄れてきて、演出の仕方はもとより、役者の表現の仕方も人それぞれ色々な形がある事を実感することが出来た気がしています。自分ならどうするかと考えると小さく纏まってしまう事が、視点を変えることで広がりが出て来ることを今回は、新人の清水と子ども役の野口から学んだ気がしています。

 新作で、初めての作家の作品に取り組むのはやっぱり大変ですが、それ以上に新しい発見があり充実した日々でした。お客様に、どのように感じていただけるか楽しみです。

 本日は、工房に足を運んでいただきありがとうございました。

 

上村 裕子

 ある日、若い新人が入った。今までにも何人も入っては、残念ながら継続には至らなかった。その新人は、在籍メンバーと明らかに年齢差があった。聞くとご両親よりも年上メンバーが多い。私に息子はいないが、息子をみるような心持ちだった。そんな彼と一作品ごとに信頼関係が出来上がり、彼はとても頼もしい存在になった。そして『期待の星』である彼が、今回初舞台を踏む!この狭い空間で、お客様の視線にさらされ、きっと一回りも二回りも大きくなるに違いない。いずれ一緒に舞台に立てる日がくるといいなあ。

 本日はご来場ありがとうございます。お楽しみ頂けましたら幸いです。

 

野口 利香

 私は「子供」に戻りたくありません。もちろん、特段「不幸な子供」だった訳ではありません。でも、もしも人生をもう一度やり直せるのなら18歳くらいからにしたい。 子供の時って、本当に些細なことを人生最大の危機のように悩んだりしたものです。宿題をやらなかったり、親に叱られそうなことをやってしまったり、何度「明日が来なければいい」と思ったことか。そして一年間のなんと長かったこと!どうしてなんでしょう。ちょっとした小さなことに心動かされ、ワクワクしたり悲しくなったり不思議に感じたり恐ろしくなったり腹が立ったり嬉しくなったりしたからか。そうだ、子供の時って、いろんなことが新鮮だった。

 私は「子供」に戻りたくはないが、この舞台であの頃の感性を呼び戻せるだろうか。

 本日はご来場ありがとうございました。

金田 恵美

 本日はご来場頂き、有り難うございます。「びんぼう君」の稽古に入り、今回のつぶやきは何を書こうと思った時…ふと自分の周りが気になりました。もちろん「びんぼう君」の部屋より、自分が普段生活している部屋は広いものの、自分が居るスペースって決まってくるなぁ、と。忙しくて自分の事が後回しになると、なんとな〜く手の届く範囲に色々な物が積んであったり(あ、決してゴミ屋敷ではないですよ)。最近はミニマリストと言って、必要最低限の所有物で暮らす人もいるようで、「びんぼう君」の二人もある意味同じ…?なぁんて思ったり。荷物が片付いているスッキリとした部屋は憧れるものの、現実は理想と程遠く…心の在り方も一緒なんだと何処かで思っている自分がいます。きっと何か吹っ切れたら、部屋も心もスッキリするのかもしれないですね。

 「びんぼう君」の世界を一緒に楽しんで頂けたら嬉しいです。

 

清水  匠

 演研に入団してから1年半が経ち、初めて舞台に立つこととなりました。役者として初めての稽古では、自分自身の変なクセ・欠点に嫌でも向き合わなければならず、想像以上に大変でした。このつぶやきを書いている今時点でも課題が山積みなので、無事本番を迎えることができるかどうか不安で仕方がありません。とはいえ怯えていても本番は予定通りやってきてしまうので、開き直って当日を迎え、観てくださる皆さまに楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

 本日はご来場いただき、ありがとうございました。

 

片寄 晴則

 昨年限りで『大通茶館』の営業に終止符を打ち、しばらくのんびりと暮らすつもりでおりましたが、縁あって4月から、管内の観光施設のカフェ担当として相変わらずコーヒーを淹れる日々を送っています。

 大通茶館では、お客様に申し訳ない程に芝居中心で営業をさせていただき、自分の生活も稽古に合わせたものでした。そして今、アルバイトとはいえ、そうでない生活を送る中で稽古に参加してみると、改めて仕事しながら芝居を続けることの大変さを感じています。(特に本番が迫る中、連日稽古が続くようになってくると)

 私は今、一歩退いた位置取りで稽古に参加していますが、団員達は、演出の富永を先頭に、初舞台の清水をもり立てようと頑張っていますし、清水も又、それに応えようと懸命に稽古を重ねています。そんな姿に接していると、演研のあゆみは健在であることを今更ながら確信している、今の私であります。

 本日もまた賑々しくの御来場、ありがとうございます。今後とも、温かく見守り応援下さいますよう、心よりお願い申し上げます。

 

 

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